気になる「Apple Music For Business」のドメインネームは?
AppleがPlayNetworkと提携して提供している店舗向け音楽配信サービス「Apple Music For Business」をご存知でしょうか。百貨店、レストラン、カフェなど様々な小売店が「Apple Music for Business」を契約することで、店舗で「Apple Music」の曲を流せることができるサービスです。「Apple Music」の商用ライセンス版とも言えます。
元々は商用利用を禁止しているAppleの個人向け音楽配信サービス「Apple Music」の顧客層を法人や小売店に広げる試みです。これによって、個人事業主が、店舗で個人で契約した「Apple Music」を流すようなことを防ぐという狙いもあると思われます。
現在、同サービスはApp Storeでダウンロードでき、iPhone、iPad及びiPod Touchで利用できます。アプリの提携者はPlayNetworkで、店舗向けに音楽やエンターテイメントコンテンツを提供するPlayNetworkがサービスの運用を担当し、Appleは「Apple Music」の膨大な音源サービスをベースに独自のプレイリストを提供するという業務提携の形です。
「apple.com」集約戦略のAppleが初めて展開するブランドTLDのUnique Site!
ここで気になるのが、「Apple Music for Business」サービスのドメインネームです!なんと!Apple初のブランドTLDを活用したUnique Siteである「applemusicforbusiness.apple」です!
ブランドTLDとして「.apple」を取得しているAppleですが、Appleは「apple.com」に自社の製品・サービスの全てを集約するブランド戦略を維持しているので、実際にはブランドTLDをほとんど利用していません。2020年7月25日時点で、Appleは26件のブランドTLDセカンドレベルドメインネームを登録していますが、実際に活用しているのは5件に過ぎないです。しかも、主に「apple.com」に転送(Redirection)の形で利用しています。
なのに、Appleが唯一ブランドTLDを活用して、さらに転送の形でもなく、ドメインネームとサイトが一致するブランドTLDのUnique Siteとして運用しているのが、これ!「applemusicforbusiness.apple」なのです!
ブランディング効果 +「Apple Music」とのサイト分離による運営の効率化も実現
同ドメインネームの登録日は2019年11月13日。同じ日に「musicforbusiness.apple」を登録していますが、このドメインネームは使っていないのも面白い点です。「applemusicforbusiness.apple」の方がもっと長い文字列にも関わらず、こちらを選択していることから、「Apple Music」という自社のサービスブランドを維持しながら、新しいビジネスを露出したい戦略が伺えます。
2019年11月は、本サービスのテスト運用が話題となっていた時期で、11月20日前後にプレスリリースが出はじめたので、そのプレスリリースに向けて、ドメインネームの登録とサイトのオープンを進めていたと思われます。
ちなみに、Appleは「applemusic.apple」も登録していますが、こちらはブランドTLDではなく、「apple.com」への集約戦略に合わせて「https://www.apple.com/apple-music/」のように階層構造を利用しています。(日本の場合、「https://www.apple.com/jp/apple-music/」)
このような個人用と商用の音楽配信サービスサイトの分離は、PlayNetworkとのビジネス提携も関わっていると見ています。例えば、「applemusicforbusiness.apple」はサービス紹介ページの役割をしていて、ログインページは、実際にサービスの運用を担当するPlayNetworkのサイト内で構築されています。リンク先は「https://applemusicforbusiness.playnetwork.com/login」。実際のサービス運用はPlayNetworkの方が担当するので、「apple.com」ではなく「playnetwork.com」サイト内にサービスサイトを置くのが自然な運営方法だと思われます。
Appleもこのようなサービスの特徴から、「apple.com」内の階層構造を利用するサイトではなく、特別な位置付けとしてブランドTLDの「applemusicforbusiness.apple」を選択したのではないでしょうか。
また、ここでも「applemusicforbusiness」というサービス名を文字列に維持していることが分かります。Appleの戦略的に、ドメインネームの長さやユーザーの利便性より、URLに見える文字列に対してブランディング効果の方に重点を置いていることを示している事例だと思います。
「apple.com」への転送傾向…しかし、注力する新製品・新規サービスをリリースする時はブランドTLDを活用
また、Appleはいくつかのキーワードに対してブランドTLDのサイトをオープンしています。登録日順で見ると、newsroom.apple(2017年9月13日)、experience.apple(2018年8月17日)、applecard.apple(2019年3月25日)、networking.apple(2019年12月10日)の4つです。
そのうち、「experience.apple」と「networking.apple」がメインサイトの「https://www.apple.com/」に転送されています。残りの「newsroom.apple」は「apple.com」内のプレスリリースページである「https://www.apple.com/newsroom/?cid=oas-us-domains-newsroom.apple」に、「applecard.apple」は「https://www.apple.com/apple-card/」のサービス紹介サイトに転送されています。
「experience.apple」の場合、Appleが新製品のiPhone Xデザインシリーズを発表する時期に合わせて登録され、現在は、iPhoneSEやiPhone11など最新の製品紹介ページである「https://www.apple.com/」に転送する形となっています。
また、独自のクレジットカードサービス「Apple Card」をリリースする時は、「applecard.apple」の他に、「applecash.apple」「applepay.apple」「wallet.apple」を一気に登録し、今後電子マネーや決済サービスに力を入れていることを類推できました。
そのうち、実際に活用しているのは「applecard.apple」だけですが、注力している新製品や新規サービスをリリースする時、ブランドTLDのドメインネームを登録してマーケティングに活用する傾向を見せています。
次回は、ブランドTLDに続いて、Appleの新gTLDの活用を見てみます。お楽しみにしてください!
APPLEのブランドTLDと新GTLDの活用が面白い!(2) ~「APPLE.NEWS」はどんなサイト?~
【第52号】ブランドTLD Monthly Report(2020年4月)
テーマ「COVID-19が繰り上げるデジタルトランスフォーメーション」
1) COVID-19により加速化する企業のDX
① はじめに
② デジタルトランスフォーメーションとは?
③ デジタルトランスフォーメーションの進化
2) デジタルトランスフォーメーションの成功事例
① Nike
② Amazon
③ Starbucks
④ Apple
⑤ Tesla
3) 企業のデジタルトランスフォーメーション戦略に必要なこと
① DX推進における企業の現状把握
② 「Digital Capability」と「Leadership Capability」の強化
③ デジタルトランスフォーメーションの段階的な実施
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<ライタープロフィール>
鄭 美羅(Mila Jung)
GMOブライツコンサルティング株式会社
IPソリューション部/New gTLD Consultant
consul@brights.jp
2017年11月に入社、IT・メディアコンサルタントとしての経歴を活かして、ドメイン分野を学びながら新gTLD、特にBrand TLDを専門にレポートを提供。新gTLD分野に興味津津。「これ、面白いっす」と色々発見中。趣味は散歩(ひたすら歩く)、写真(めちゃくちゃ撮る)、カフェ(ただぼっとしている)、そして世界の観察と分析(?!)。
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