6月18日(現地時間)、Facebook社が独自の暗号通貨「Libra」と専用デジタルウォレット「calibra」を2020年から提供することを発表しました。
Libraは「何十億もの人が簡単に使用出来る新しいグローバル通貨を作成し、新たな金融サービスの基盤を築いていくこと」(引用:https://nextmoney.jp/?p=18751)を目的としてますが、数十億のユーザーを持つFacebook社の新たな金融サービスが与える影響は図りしれないと言われています。
新サービスに密接に関係してくるものがドメインと商標ですが、今回Facebook社はどのように運用しているのでしょうか?
まずはドメインの取得状況から背景を探っていこうと思います!
Facebook社、Libraドメインはこう取った!
早速、Libraから見ていこうと思います。やはりlibra.comかな?と思い、見てみると・・・
www.libra.com/enに転送設定されました。見たところ、Facebook社のLibraではないようです。詳細を確認すると、航空やエネルギーをビジネスとするリブラグループが使用中でした。
ではFacebook社がどんなドメインで公式サイトを運用しているかというと・・・
「libra.org」を使用し、libra.org/en-USに転送設定をしています。
私が意外だったのは、「.org」を使用していたこと。どうして「.com」ではなく「.org」を使用しているのか、ここでひとつの仮説を立ててみました。
【仮説】
・「.com」ドメインは、「登録数が世界で最も多く、世界的な認知度・信頼度が高い」(引用:https://www.onamae.com/campaign/comnet/profile1/)ため、Facebook社はLibraの公式サイトを「libra.com」で運用したかった。
・現権利者であるリブラグループとFacebook社は「.com」を巡って交渉を行っていた。
・交渉は成立せず、Facebook社はorganization(オーガニゼーション)を意味する「.org」を取得した。(.orgは非営利組織用が使用することを想定されていますが、制限が設けられていないため、誰でも取得が可能です。)
暗号通貨関連のドメインは年々その価値が上昇しており、「ethereum.com」のように約11億円という極めて高い価格で売り出されている事例もあります。 あのFacebook社が買い手の候補者であったとすれば、売り手が莫大な金額を提示した可能性も考えられます。譲渡交渉は行われていたが、結局成立しなかったこともあり得るのではないでしょうか。
一方、「libra.org」は1997年に初めて取得がされており、主に天秤座の占いのページとして運用がされていました。 「libra.org」は2019年2月にDNSの何らかの情報が変更となっています。詳細を確認したところ、この時点でレジストラが変更されており、このレジストラはFacebook社が使用しているレジストラと一致します。そのため、譲渡交渉の末にFacebook社が取得し、2月の時点で権利者をFacebook社に変更した可能性は非常に高いと言えるでしょう。
Calibraドメインはどうしている?
暗号通貨のLibraでは「.com」が使用できなかったFacebook社ですが、デジタルウォレットのCalibraは「calibra.com」を取得し、公式サイトを運用しています。
この「calibra.com」ドメインは、2018年10月にオークションで$7,550で落札されています。($7,550=80万円)
同時期に権利者変更が行われており、レジストラであるGoDaddyから大手法律事務所のHogan Lovells Paris LLPになっています。
$7,550は日本円で約80万なので、Facebook社にとっては許容範囲内の価格だったのではないでしょうか。Hogan Lovells社がFacebook社の依頼を受けて「calibra.com」を落札したと推測します。
すでに偽サイトも出現
無事に公式サイトを立ち上げたFacebook社ですが、すでにいくつかの偽サイトが立ち上がっていることが確認されています。
暗号通貨専門のニュースサイト、CoinDeskは、偽サイトのひとつである「calìbra.com」について報じています。(引用:https://www.coindesk.com/libra-scams-on-the-rise-as-newbies-learn-about-facebooks-crypto)
同サイトは、似た文字に入れ替えるAlphabetical similarityのタイポドメインを使用しています。ドメイン登録名にイタリア語などで用いられるアクセント記号「ì」を使用することで一見公式サイトURLとの違いが分かりづらくなっています。
デザインや色がフォントは同じものを使用しており、中身も酷似している印象を受けますが、公式サイトは右上に「Get Started」のボタンが配置されているのに対し、偽サイトは「Pre-Sale Libra Currency」となっています。
このボタンを押すと、購入時に25%のボーナスが付与されると記載されたLibraプレセールの画面が表示されます。(引用:https://www.coindesk.com/libra-scams-on-the-rise-as-newbies-learn-about-facebooks-crypto)
(引用:calìbra.com)
実はこの「calìbra.com」、6月26日の時点では画面上で確認ができたのですが、6月27日の午前中に確認したところ404エラーが表示されてしまいました。(404エラーはアクセスしたページが存在しないことを意味しています。)
(引用:calìbra.com)
当該ドメインは6月21日に取得され、23日にページが立ち上がった痕跡がありました。その4日後にはページが削除されています。おそらく、Facebook社から削除要請があり、ページが削除されたのではないでしょうか。スピード感のある素晴らしい対応です。
まとめ
Facebook社のドメイン取得は、
・Libra、Calibraともに適切なタイミングで取得しており、またフローも問題ないと考えます。
・偽サイトへの素早い対策から、Facebook社はタイポドメインに対する監視を定期的に行っていると考えられます。独自のシステムを使用している可能性もあります。
・Libraは金融関係のビジネスであるため、※EV(Extended Validation) SSLを利用することが、ユーザーの信頼度を上げるために有効であると考えます。
※EV SSLとは最も厳格な審査をもとに発行されるSSLサーバ証明書のこと。「ブラウザで表示すると、アドレスバーにそのウェブサイトの運営組織が表示され、緑色に変化」する。(引用:https://jp.globalsign.com/service/ssl/ev.html)
・今後、フィッシングなどの侵害が発生する可能性があります。侵害発生した際にFacebook社がどのような対策を取るのかが引き続き重要となります。
次回は商標編に続きます!
〈ライタープロフィール〉
千葉 やよい(ちば やよい)
GMOブライツコンサルティング株式会社
IPソリューション部/ドメイン担当
2012年に入社。営業アシスタントやBRANTECT、商標を担当したのちドメイン担当に就きました。主にガイドライン作成を行っています。ドメインについては現在進行形で勉強中。趣味は漫画、アニメ鑑賞、ゲーム