ミツカンといえば、お酢のイメージが強いですが、つい数か月前新しいブランドの立ち上げが発表されていました。
その名は、 ”ZENB”
2018年度の決算報告を見ると分かりますが、2018年11月に策定した「ミツカン未来ビジョン宣言」 の活動から生まれたブランドとのことです。
「ミツカン未来ビジョン宣言」 では、「人と社会と地球の健康」「新しいおいしさで変えていく社会」「未来を支えるガバナンス」の3つのビジョンをもって10年先の未来に対してチャレンジをしていくことを宣言したものですが、”ZENB” は、このチャレンジの中から誕生しました。
ZENBとは?
言葉だけ聞いてもいまいちピンとはきませんが、サイトを見る限り、野菜を残さず ”全部” 食べることができる製品を販売しています。
野菜を全部食べるということで言えば、ニンジンを丸ごとジュースにとかもあるので真新しさもあまりなさそうだとは思いますが、トウモロコシの芯やエンドウ豆の鞘さえも無駄にせず、美味しいものに変える取り組みのようです。
ゴミのでない環境配慮型の商品ブランドといったところでしょうか。
思いの詰まったブランドの知財は?
少し前のティラミスヒーローの事件のように、思いを込めて作り上げたブランドも知財の権利化が一歩遅れるだけで事業の方向転換をする必要が出てくることもあります。
そんな思いも詰まった ”ZENB” は、知財の権利化はどのような対応をしているのでしょうか。
日本の商標を見ると、2018年1月11日に出願をしています。
”ZENB” がスタートするきっかけとなった2018年11月策定の「ミツカン未来ビジョン宣言」よりも約1年近く前からネーミングは決まっていたのですね。
現在、”ZENB” のラインナップは、ペーストとスティックですが、今後の展開(もちろん保護的な権利化とも考えられる。)として、サプリメントや飲み物、飲食物提供があるのかもしれません。
さて海外の展開はどうなのでしょうか?
2018年の決算でも海外の展開には力を入れていることが窺えますが、”ZENB” についても当然それは視野に入れていると思います。
馴染みのGlobal Brand Databaseで少し権利状況を見てみましょう。ZENBで検索をしてみたところ、下記の結果でした。
データベースの収容対象国が全世界ではありませんので、すべての展開国ではありませんが、日本以外だと、ヨーロッパとアメリカが進出予定国であることが分かります。共に日本出願を利用しパリ優先権を主張しての出願をしています。
※パリ優先権って?という方に。商標は基本的には早いもの勝ちのスタンスです。そうではあるのですが、それを徹底すると不公平なことも生じるため、日本で出願した場合、パリ条約加盟国間については、6か月間は日本で出願した日を他国での出願日として扱ってあげよう、という取り決めです。
その後、2018年後半から2019年には、”ZENB VEG BITES” ”ZENB VEGGIE BITES” の取得もしています。”ZENB” を除けば、識別力が認められるか否か微妙な言葉ではありますが、なぜ出願をしているのでしょうか?
ブランドステートメントは日本と欧米がそれぞれに考えたのか?
データベースを ”ZENB”に絞らずに、オーナー名:mizkanで調べてみました。
”ZENB”のブランドステートメントは、”「食べる」の全部を新しく” ですが、日本の出願は、先ほどのJ-PLATPATの結果の通り、2019年3月7日です。一方、欧米では、その1年前の2018年には、”ZENB” のブランドステートメントは考案が開始されていたようです。
2018年3月8日には上記の通り、ヨーロッパで ”Food Holistic” ”Taste Possible” の2商標が出願され、8月にはアメリカで ”Taste Possible” が出願されてることからも、欧米のブランドステートメントは、 ”Taste Possible” にしようと思ったのかもしれませんね。
ただ、最終的には、2019年4月、日本のブランドステートメントを追うように、”FOOD REDISCOVERED”の出願をしています。サイトでもそのようになっていました。
試行錯誤が権利から見える
今まで商標出願履歴を追ってきて少し感じることは、”ZENB” は、新しい発想のブランドであり、マーケ側は消費者とどうしたらスムーズなコミュニケーションをすることができるのかを何度も検討し、知財側はその発想を他社に取られまいと、商標を利用した表現の規制をすることで、ブランドの世界感を守ろうとしているのかな?と感じました。
意匠権はないか?
最後に、通常ブランドを立ち上げるときは知財でいうと商標を取得というのが一般的ですが、新規ブランドであることと、ヨーロッパ進出ブランドであるということもあり、意匠権も取得しているのではないかと思い見てみました。
すると。。。
見事にありました。2018年9月に出願をしています。
ヨーロッパの意匠が日本とは異なり、ロゴだけで権利化をすることができるという特徴を分かっての出願でしょう。こうすることで、商標では抑えきれない事業分野に対しての保護も一定限度できることからも、知財部の仕事のきっちり具合が分かります。
ブランドは一部署で作るものではない
ブランドの立ち上げには、売上を上げるマーケ側と自由にブランディングができるようにする権利化を周到にする知財側との密な連携があるのだと公開データから感じました。
知財経営とかIPランドスケープとか言いますが、企画の早い段階でいかにキーパーソンが同じテーブルについて、同じ思いをもって一緒にブランディングをしていくのかが事業成功の基礎作りであると少し感じました。
実際のところがどうなのかはわかりませんが、機会があったら「推論は合ってましたか?」とか、インタビューでもしてみたいですね。
※少し古くはありますが、パテント2003Vol.56のP7にロゴの意匠権を取得することのメリットは詳しく書いてありますので、ご参照ください。
〈ライタープロフィール〉
寺地 裕樹(てらち ゆうき)
GMOブライツコンサルティング株式会社
営業本部 IPソリューション部
2008年に入社後営業部の主力メンバーとして、営業数字を牽引。2012年には、当時最年少で営業部部長に就く。現在は、商標・ドメインネームに関するコンサルティングを主に行うIPS部、営業部、営業管理部を率いる営業本部副本部長として従事。趣味は、家族と週末農家、インラインスケートなど。