【ざっくり比較】自動車会社三社(ホンダ、トヨタ、ニッサン)の商標出願傾向を比較してみた。

今回は、自動車業界の出願傾向をマクロ的に見てみましょう。自動車という括りの中では現在まで大きく事業形態に差はない三社ですが、商標の出願傾向に差はあるのでしょうか?

今日も利用するのはWIPOのGlobal Brand Databaseになります。中東や南米、東アジア辺りの情報は欠けてしまいますが、ご容赦ください。

出願区分の傾向(10年毎)

以下のマトリクスは、自動車大手三社の10年毎の出願区分傾向です。

売上順位は、①トヨタ、②ホンダ、③ニッサンですが、商標の出願総件数順位でいえば、①ニッサン、②トヨタ、③ホンダの順となっています。

ニッサンの出願数は、2010年代に急激な上昇を見せています。車を扱う12類だけでなく、その他区分についても多くの出願をしています。特に2010年代で12類を除く出願数の多い区分は、35類、37類、9類、41類、42類です。

35類は代理店管理のため、37類はメンテナンスに関わる出願、9、41、42類は、おそらく自動運転を含めたIoTサービスの推進のために出願が多くなってきたのだと考えます。出願区分についてはメリハリがあって、食品関連の区分など、不要な区分は徹底的に取らない姿勢がデータから窺えます。

トヨタもニッサンと同様、2010年からの加速的な出願数増がデータから見受けられます。ニッサンほどではありませんが、12類を除くと9類、41類、42類あたりの出願が多いことから、モビリティ社会の実現に向けての出願を多くしているのかもしれません。

区分全体に保護の意識は感じられ、事業と直接関連性がない区分に対しても一程度の出願をしていることが分かります。

ホンダは、前2社とは異なり、2000年代から出願が加速しています。12類を除いたときに多く出願している区分として7類がありますが、芝刈り機や耕運機などパワープロダクトに力を入れている結果であると考えます。

その他16類:ステッカーなど、25類:アパレルの出願も多くありますが、模倣品対策で有名な企業であるため、類似品排除のためこうしたメイン区分でないところの出願が増えているのかもしれません。(2010年代、その出願は半減しています。)

2010年代は他社と同様、IoTへの注目度が高くなったのか9類、41類、42類への出願が多くなっています。また、保護取得の考え方はトヨタに似るところもあるのか、2010年代に直接事業と関係しない区分についても取得をしています。

3社を比較すると、12類を除いたとき、明らかにIoT社会の到来を想定した次世代サービスへの取り組みを強化していることが見てとれます。

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出願区分(5年毎)/ホンダ

ホンダだけですが、5年毎に区切ってサービス区分の順位の上昇を見てみました。

サービス区分は、メンテナンス区分の37類が2000年代初めに上位に位置しています。この時41類や42類は順位としてはまだTOP10入りはしていません。

これが、2006年以降5年毎に出願数を伸ばし、2016年以降では12類を除くと、結構なシェアを占める出願をしていることがわかります。自動車業界全体がモビリティ社会について語り始めた時期でもあり、改めて商標は事業・サービスと連動して出願がされていくものなのだと実感をします。

ちなみに、ホンダのサービス区分についていえば、37類、41類、42類を除くとほぼハウスマークでの出願でした。指定商品を見てもいわゆる保護的な出願であることが伺えます。

出願国の傾向(5年毎)/ホンダ

結論を先取りしてしまうと、大手三社の出願国の傾向は、多少の順位の違いはあれど、北米、ヨーロッパ、アジア諸国の中でも経済的に発展している国・地域を対象として出願していることが多いことがわかります。

ホンダに関していえば、アメリカで出願が多くなっているのは、ホンダブランドに加えて、ACURAブランドを扱っていることも要因の一つかもしれません。

ヨーロッパの国が上位に並びますが、これはEUTMを加盟国毎に一出願と扱っているためです。決して各国出願をしているわけではありません。

東南アジアについては、インドネシアとマレーシアが群を抜いていた出願数ですが、車の販売台数と人口が多い国のため、需要からして出願数も伸びていると考えます。また、制度上、以前単一区分制度であったことからも両国の出願数が伸びているという理由もあるかと思います。

なお、79件のマドプロ出願が過去からあり、積極的に活用をしていることがわかります。(c.f. トヨタ:43件、ニッサン:35件)コスト面と登録後の扱いやすさを考えての対応なのかもしれません。

出典:globalbarnddatabase

出願国の傾向(5年毎)/トヨタ

ホンダのところで述べた以外だと、2011~15年のラオスの出願が突然多いことに目を惹きました。調べてみると、トヨタとレクサスのエンブレムをはじめとしたハウスマークの出願がありました。

となると少し興味の湧くところですが、トヨタクラスの企業はハウスマークの補強出願を定期的にやっているのでしょうか?

下記はtoyotaを含む出願傾向を2000年代についてみたものです。

出典:globalbarnddatabase

2012年、2015年にハウスマーク関連の出願ピークがありました。ただ、この両年もトヨタを含む出願も多く、ハウスマークの大量出願と言えるほどではありませんでした。

他の年度についても見てみると、国ピンポイントでのハウスマーク出願をよくされています。おそらく商品商標を出願するときなどに、出願の足りない国、商標が古くなり補強が必要な国については随時出願をしていくという習慣があるのかもしれません。

出願国の傾向(5年毎)/ニッサン

出願国の優劣については、順位の差は多少あれど、前2社とあまり変化はありません。年代ごとにみると、直近の大きな変化といえば、何といってもニッサンロゴの変更です。出願国がイギリスという部分は非常に興味深かったです。

また、2010年代の出願が多い理由は、旧ニッサンロゴ、インフィニティブランド、インテリジェンスモビリティ関連の商標の多さによるものです。

出典:globalbarnddatabase

2000年代の出願数の多さは車種の出願が大半を占めており、2010年代の出願内容とは異なっています。型番に近い商標も取得が必要な業界という印象を持ちました。

出典:globalbarnddatabase

まとめ

大手三社をざっとみてきましたが、現時点までの事業活動を考えたとき、自動車という括りでは区分と進出国に大きく差はないのだなと思いました。

ただ、将来の取り組み方はおそらく変わってくると想定します。ホンダはジェットは事業が軌道に乗り始めたフェーズに入り、トヨタは垂直離着陸(eVTOL)機への投資を強めています。ニッサンも自動運転のさらなる強化をしています。自動車という共通点を超え、大手三社が違う方向性に歩み出していく雰囲気を醸しています。

これからもショーで未来の先進的な乗り物を確認するだけでなく、商標データも眺めながら各社の歩みの違いを確認していければと思います。


ライター:営業本部 寺地 裕樹(Yuki_Terachi)

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