「特許法等の一部を改正する法律案」(様々な改正が含まれていますが、以下は、意匠法改正といいます。)が2019年5月10日に国会で可決されました。これをもって1年以内に公布がされることとなりました。
私も日頃こうしてメディア(ウェブサイト)を運営していますが、この意匠法改正はウェブに携わる方にも影響があるとのことです。
最低限どんなことを知っといたらいいのか、少し確認をしてみましょう。
ウェブサイト画像も意匠権の対象に
今回の意匠法改正では、対象が拡大されました。過去にも拡大はされているのですが、少し振り返ってみます。
意匠権の当初は、製品のデザイン(例えば、リモコン)が、保護の対象でした。
これがコンピューターやインターネットの登場により、保護すべき対象も広がり、製品に伴って映し出される画像(例えば、iphoneの中のアイコン)は、製品に関連するものとして意匠権で保護されるようになりました。
そして、今回の改正では、クラウドサービスなど、さらなる時代の進化に対応すべく、製品と関連しない画像(例えば、ウェブサイトの画像)についても意匠権の対象とすることになったとのことです。
諸外国のことを言えば、ヨーロッパは既にウェブサイトの画像についても意匠権の対象としていたりしますので、日本だけが特有というわけではなく、追いついたという雰囲気です。
メリットは?
今までウェブサイトの画像は、著作権で十分に守られていた、と感じる方も多くいらっしゃるかもしれません。意匠権も認められるってことで何のメリットがあるのでしょうか?
著作権は、著作物を作成した際に勝手に権利が誕生し、権利を登録することも不要です。一方で意匠権は、特許庁に意匠を申請し、審査官の審査を受けて、初めて登録となります。
なんかこう考えると著作権のほうが楽で良さそうな感じがしますね。ただ、意匠権の良いところが少しありそうです。
意匠権は先ほど書いた通り、審査官の審査を受けた、いわば国のお墨付きの権利です。登録権者には専用権があるため、同一類似の意匠に対しては、利用の停止をすることが簡単にできます。著作権の場合は、権利発生が簡単な分、権利行使するときには、他人の不正を証明していく手間があったりしますので、意匠権登録にメリットがありそうです。
今までのウェブサイトはどうなる?
ここで少し不安になるのは、今自身の運営しているサイトが、この改正の後に、誰かの意匠権を侵害することになってしまうのか?ということではないでしょうか。
これは、Noです。先使用権というものが認められており、原則権利侵害とはなりません。
先使用権とは読んで字のごとく、先に使っているということです。意匠権を後から取られて、昔から使用していた人が文句を言われては不公平ですので、そうしたことの配慮は法律上されています。
これからのウェブサイトは?
そもそも意匠登録する際は、”新規性”が必要になります。新規性というのは簡単に言ってしまえば、世の中に知られていないことです。
現在公開されているウェブサイトは世の中に知り得る状況にあるので、登録はできないことになります。
これから制作されるウェブサイトについては、”新規性”がありますので、意匠権登録の可能性はあります。もちろん、その他の要件もあり、”容易に創作できないものか”なども特許庁では確認をしていきます。
注意することは、意匠権を取得するという決意をするのであれば、意匠権出願前の外部公開は控えなければなりません。
今までは製品のリリースタイミングなどを意識して外部公開をしていたかもしれませんが、意匠権を取得するのであれば、この点は注意をしておくべきです。
商標権や著作権には、”新規性”という登録要件はありませんでしたので、ある種後追い、ということが可能でしたが、意匠はそうではないことは覚えておくといいかもしれません。
気になること
ウェブサイトが意匠の対象になることはありがたいことですが、ウェブサイトは、WORDPRESSやWIXなど、テンプレートを利用することで簡単にデザインをすることができる時代です。何をもって”容易に創作できない”と判断をするのかは気になる点です。
また、意匠権は類似の範囲まで及びますが、これもどこまで及ぶと判断されるか気になるところです。
判断はなかなか難しいので、国が公開している下記データベースに画像をアップして自身のクリエイティブと似ているものが登録されているのかを確認するのがまずは第一だと思います。
東京オリンピックの件以降、著作権侵害が気になって、googleで画像検索したりする癖もついてきている方も多くいらっしゃると思いますが、今後はもう一つプラスの確認作業をしたほうが安心ができそうです。
ウェブ担当がやることのまとめ
今回の意匠法改正で少し気を付けたほうがいい点は、以下の通りかと思います。
・ 意匠権でも自身のウェブサイトを保護しておくメリットがあるか考える。
・ 登録をするなら、ウェブサイト公開のタイミングを注意する。
・ 今後公開するウェブサイトが意匠権侵害していないか、データベース等で確認する。
まだ法律は施行していませんし、意匠の登録まで6か月程度かかることを考えると、2020年以降真剣に考えれば良さそうですが、企業の事業推進に重要なツールであるウェブサイトが権利の問題で利用できないといった事業リスクについて、今まで以上に注意を払う必要があるということは、記憶の片隅に留めておくとよいかもしれません。
〈ライタープロフィール〉
寺地 裕樹(てらち ゆうき)
GMOブライツコンサルティング株式会社
営業本部 IPソリューション部
2008年に入社後営業部の主力メンバーとして、営業数字を牽引。2012年には、当時最年少で営業部部長に就く。現在は、商標・ドメインネームに関するコンサルティングを主に行うIPS部、営業部、営業管理部を率いる営業本部副本部長として従事。趣味は、家族と週末農家、インラインスケートなど。