飲食業界の商標出願のポイント

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外食産業の海外進出は日本料理ブームもありアジア中心に積極的に行われています。フランチャイズ展開など、現地パートナーとの関わりも多く、権利周りの対応をしておかないと事業展開がスムーズにいかないケースも発生します。下記のことは知っておかれるべきかと思います。

 

貴社ブランドを第三者が出願?

近年、第三者がある国・地域で著名なブランドを盗用し、自国で勝手に出願するケースがよく生じています。これを冒認出願といいますが、特に中国人によるケースが多いです。

中国の商標出願件数は、中国商標局の報告では2015年で287.6万件(*1)ありました。中国以外で一番出願数の多いアメリカでも40万件もいかないため、出願数は群を抜いています。ただ、この出願の中には、ブランド権者でない方の出願も多くあります。

ポジティブに考えれば、冒認出願されるほどブランドが有名になってきていると考えることはできますが、やはり自由に事業展開ができなくなるため、足かせになることがしばしばです。第三者にブランドを取得されることで生じる問題例は以下の通りです。

■ 当該国でのブランド展開ができない
■ ライセンスを受ける必要が生じる
■ ブランド名変更
■ 継続使用してしまうと損害賠償請求される可能性がある

訪日旅客数も日本政府観光局の調べでは、2015年に2,000万人弱ありました。アジアに限定をすると、1,700万人弱の訪日がありました。訪日客が日本の外食産業のブランドを気に入り、フランチャイズ権を得たいがために当該国で商標出願をしてしまうケースもありますので、海外出願のタイミングの見極めは重要です。

 

フランチャイズ契約時に商標登録が必要?

日本で出店して流行ったら海外ブランド展開をするという考えが一般的だと思いますが、それでは海外の事業展開スピードに合わないケースがあります。

フランチャイズ契約をする際には、通常事前の商標登録が必要です。これは、安心してフランチャイジーが事業をするためです。商標登録までには1年~2年の時間を海外では要します。したがって、海外展開を見越して先手を打っていく必要があります。

また、事業をスムーズに進めるために、商標登録証書の原本はしっかりと保管をしておきましょう。主に中国ですが、フランチャイズを展開する際には、権利確認のため原本を要求されることがよくあります。原本を紛失した場合の再発行には時間を要します。小さな話かもしれませんが、こうした一手一手が事業の遅延、機会損失につながるため、注意が必要です。

もっと些細なことでいえば、商標申請書類のサインは、英語でしたのか、漢字でしたのか、印鑑でしたのかを留めておくことも重要です。このサイン方法だけで、当該国の特許庁の審査が遅延することがあります。

 

ブランド名で他ブランドと見分けがつく?

新しいブランドを考えるとき、ワクワク感しかないと思います。そんな時期に少しだけ実際の事業展開を念頭に置いて考えていただきたいことがあります。それは、権利化できるブランド名であること。 先ほど話した通り、フランチャイズ展開をするときに商標は絶対に必要です。裏を返せば、商標登録ができないようなブランドで事業展開をすると、フランチャイジーに事業リスクを負わせてしまう可能性があります。たとえフランチャイズ展開しないといっても、何店舗も出店を考えている場合は、商標権がないといつか他人の商標権に抵触する日がきます。その結末は冒認出願のパートで話したとおりです。そうならないために、以下を注意してブランド名を考案するべきです。

■ 識別力を持たせる
■ 他社と類似したブランド名は避ける

一つ目の識別力を持たせるためには、他人と区別することができるかが必要です。焼き肉屋を経営するとき、すべての事業者が“焼き肉屋”と名乗っては、お客様は見分けがつきません。どんな焼き肉屋なのかを表現する必要があります。

まず前提として、“焼き肉屋”で商標権を取ることは難しいです。商標登録の際には、考案した言葉をある一人に独占させていいかという議論があります。“焼き肉屋”という言葉を一人に独占をさせてしまうと、極端にいえば、日本で一事業者しか“焼き肉屋”を展開できなくなってしまいます。

こういったみんなで使うべきような言葉(例えば、牛、豚、イタリアン料理、鉄板焼きなど)は、商標登録が原則できません。

では、どんな名前がいいのでしょうか。例えば、焼き肉屋『ブライツ』(センスは良くないです。)とすれば、お客様はブライツにいけばあのお肉が食べれると判断(区別)をすることができますので、商標法的には適切です。(もう一度いいますが、センスは疑わしいです。)

次に他社と類似したブランド名をでないかを調べる必要があります。自身のブランド名の出願より先に類似する登録商標があった場合、せっかくの考案した商標は取得ができません。類似をしているか否かの判断は国により判断が異なり、難しいため、当社を含め、専門家に相談することをお勧めします。

最近では各国の商標データベースが公開されていますので、ブランド名と完全に一致する対象は割と楽に調べることができるようになってきました。こうしたデータベースを考案初期段階に利用することも有用です。

 

日本で使用できるブランドは海外でも使える?

商標は基本的に属地主義といわれており、日本で登録した商標は日本でしか通用しません。中国で事業をする場合には、中国で商標登録をする必要があります。

海外で事業展開をするときは言語も気をつけなくてはいけません。中国では英語の識字率が低いため、中国語を付さないとブランド名を記憶してもらえない可能性があります。主に英語商標で海外展開をすることが多いと思いますが、進出国の識字率を考えて、現地語の商標取得も考えていくことをお勧めします。

また、日本語が外来語として扱われてしまうため、制度上商標登録できない国(例、ベトナム)もあります。アジアの商標制度は独特な部分が多くありる、是非ご相談ください。

 

ブランドの使用方法は守ってる?

事業展開をしたときによく起こることですが、商標登録したものを変形、改変して使用をしてしまうケースです。これを続けていると、商標が消滅してしまうケースがあります。
そのため、商標は正しく使用しなければなりません。原則は、商標登録の通りに使用をすることです。

コストを抑えるために、よく“ブランドロゴ + ブランド名”で商標登録し、ブランドロゴだけを使用、ブランド名だけを使用といったことをしているケースを目にします。こうした使い方は、国によって正しい使用にならないことがあるので注意が必要です。

看板やメニュー表、広告物などでブランドの表記が変わるようであれば、ブランドロゴとブランド名を其々独立して商標登録することをお勧めします。

 

よく出願する区分

外食産業で出願する主な区分を一覧でおまとめしました。

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区分 指定商品 代表例
29 肉製品、加工水産物、加工野菜、加工果物など 惣菜、ジャム、左記製品の店頭販売
30 穀物の加工品、調味料、香辛料、茶・コーヒーなど パン、お菓子、焼き肉のたれ、左記製品の店頭販売
31 野菜、果物、魚など
32 ビール、清涼飲料、果実飲料、乳清飲料、飲料用野菜ジュース
33 日本酒、洋酒、果実酒、中国酒、薬味酒
35 フランチャイズ事業の運営管理など
43 飲食物の提供など レストラン、居酒屋、イートイン

各国で該当する区分に揺れが生じることもありますので、出願時の確認が必要です。

 

最後に

外食産業の皆さまは、他の業務と掛け持ちされて商標業務をなされていることが多くあります。その点を理解した上で手厚いサポートをさせていただきます。また、当社は、立ち上げから10数年で1,500社のお客様のサポートをさせていただいております。各国での実績も多くございますので、是非一度ご相談ください。

【出典】
*1 http://sbj.saic.gov.cn/tjxx/201606/P020160620358791880930.pdf