中国越境ECの拡大
越境ECとは、インターネット通販サイトを通じた、国境をまたいだ商取引を指します。越境ECの市場規模は年々拡大しており、特に中国における購入額が多くを占め、中国における日本の購入額は2兆円に達すると言います。
中国における安全性の高い海外製品へのニーズの高まりや、中国政府が越境ECの拡大を支援していることなどから、対中国市場向けの越境ECは大きく成長しているのです。
メリットとデメリットを理解する
越境ECは、以下、2通りの販売方法があります。
●国内・海外の越境EC機能を持つECモールに出店
●自社サイトの外国語版を構築する
近年注目を集めている中国越境ECサイト、2つをまとめたものがこちら。
天猫国際(Tmall Global) | 天猫国際は、中国最大のインターネット企業、阿里巴巴(アリババ)が2013年に開設した、越境EC専門のモール。日本から直接契約でき、中国法人や中国内商標がなくても販売が可能。日本の製品が全売上のうち19.3%を占める売上で1位となっており、アメリカの18.3%、韓国の13.6%が続く形。 |
天猫(Tmall) | 天猫(Tmall)は市場シェア1位で、日本の楽天に似たプラットフォーム。各ブランドは、天猫内に自社店舗を開いて運営しており競争が非常に激しい。出店するためには、中国法人、中国商標登録書、各種許認可証明書などかなりの書類を準備する必要がある。近年、その出店審査が非常に厳しくなり、基本的にはブランドホルダーの旗艦店しか出店できない傾向となっている。 |
天猫国際は、中国法人や中国国内商標がなくても販売が可能である点は、天猫と大きく異なることがわかります。海外販売の障壁を低く抑えられたり、新商品や日本限定商品をすぐに販売できるというメリットがある反面、中国国内商標を持たなくても簡単に事業を開始できるという身軽さには危険が潜んでいます。中国国内商標を持たないまま事業を始め、人気や知名度があがってきた際に第三者に出願登録されてしまった場合、自身の事業が安全進められなくなったり、最悪の場合損害賠償を請求されてしまうってしまうデメリットにも繋がるのです。
「侵害される」側という立場から、「侵害する」側という立場になってしまう可能性があるということが、お分かりいただけるのではないでしょうか。
中国越境ECで人気の日本製品
中国越境ECで人気の日本製品上位10位がこちら。
順位 | 製品名 | 製品詳細 | 企業名 |
1位 | シルコット うるうるスポンジ仕立て | 化粧水を含ませるシートマスク | ユニ・チャーム株式会社 |
2位 | ホワイト&ホワイト | 歯磨き粉 | ライオン株式会社 |
3位 | フルグラ | 朝食グラノー | カルビー株式会社 |
4位 | サンベアーズ ストロングスーパープラス N | 日焼け止め | 株式会社近江兄弟社 |
5位 | カルピスウォーターパウチ | カルピスのパウチ飲料 | 朝日飲料株式会社 |
6位 | フィーノ プレミアムタッチ | 浸透美容液 | 株式会社資生堂 |
7位 | メラノ CC 薬用しみ集中対策美容液 | 美白美容液 | ロート製薬株式会社 |
8位 | サラサーティ ランジェリー用洗剤 | ランジェリー用洗剤 | 小林製薬株式会社 |
9位 | おいしい蒟蒻ゼリー ピーチ味 | 蒟蒻ゼリーのパウチ飲料 | 株式会社たらみ |
10位 | サボリーノ 目ざまシート | オールインワンマスク | 株式会社スタイリングライフ・ホールディングス |
出展:https://www.businessinsider.jp/post-175102
上位10製品全てにおいて、化粧品、食品、といった製品であることがわかります。中国越境ECの利用の高まりから、今後、中国内での日本製品の人気は高まることが考えられ、それにより日本製品を模した偽物の製造も増えることが予想できるのではないでしょうか。特に直接消費者の肌に触れたり、身体に入るものであるため、万が一、消費者が偽物を使用して何かあってからでは遅いのです。
中国の状況を理解しましょう
中国・台湾において日本の地名や地域ブランド等が第三者によって出願登録される事例(抜け駆け出願)が相次いでおり、これによって我が国の企業等の現地でのビジネス展開に支障が生ずるリスクが増加しています。中国の商標出願件数は年々増加しており、2017年には商標登録出願が飛躍的に増加し、前年比で55.7%増加の574万8000件となりました。
(グラフ単位:件)
中国政府が世界的なブランド育成を目標に掲げ、国外での商標を含む知的財産権の出願に補助金を出していることを背景に、今後も出願件数の増加に伴う抜け駆け出願のリスクの高まりが懸念されます。
知っておくべき4つの商標知識
POINT①「中国での商標登録」:
抜け駆け出願のリスクを回避し、安全に事業運営を行うには商標登録が必須です。
POINT②「適切な権利範囲(区分)の確認」:
適切な権利取得を行うことはもちろん重要ですが、登録後、保有している商標と、現在展開している事業内容に不足等がないか」等、定期的な見直しも重要です。
POINT③「中国語表記での登録検討」:
中国の方は聞いた音を中国語に置き換えることが多く、WEBでの検索も中国語表記を使用することがメジャーです。企業側が多言語サイトの構築による中国語表記の提示をしていなくとも、人気のあるブランド名等は勝手な中国語のネーミングをされた上に知らぬ間に第三者の権利として認知度が高まってしまうこともあります。
ブランド名がローマ字や日本語表記の場合は関係ない!と考えるのではなく、中国語表記で登録がされていないか確認することが必要です。
POINT④「模倣品出品状況の確認」:
安全に自社製品を中国で売るためには、マーケットプレイスに模倣品が出てないかの定期監視を行うことは重要です。模倣品販売を見つけた場合はマーケットプレイスに対してクレームを上げ、模倣品の出品削除をしていくこととなりますが、その際には、商標権をはじめとする知的財産権が必要となるので、「中国での商標登録」は非常に重要となります。
まとめ
ネット販売を悪用する者は、人気の出てきたショップ名を模倣したり、人気の出てきたショップロゴやそれとよく似たロゴを付した粗悪品を流通させることが多く見受けられます。このような粗悪品が消費者の手に届くことで、信用の損失だけでなく回復し難い被害を被ることになります。この点、きちんと商標登録を行っておけば、何か起こってしまった際にも、容易に権利行使が可能となるのです。ECモールへの出店の要件として「中国内商標」が設けられていなくても、中国へ展開する際には商標登録は必須となります。
〈ライタープロフィール〉
中山 礼美(なかやま れいみ)
GMOブライツコンサルティング株式会社
IPソリューション部/メディア担当
consul@brights.jp
2011年に入社後営業サポート業務に携わり、2017年5月よりメディア担当者として、商標やドメインネームの業務を学びながら記事を発信。様々な業界のトレンドを意識した記事作りの難しさに奮闘中。趣味は食べるコト、プチプラでお得感の高いものを探すこと。
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