2025年11月21日、中国国家知識産権局(以下、CNIPA)は「商標使用管理強化に関する通知」(文書番号:国知办函保字〔2025〕916号)を発行しました。
本通知は、中国国内における商標の「使用段階」における監視・監督を抜本的に強化するものです。市場の公正な競争と消費者保護を目的として、虚偽表示や品質誤認を招く行為への取り締まりが全国規模で実施されます。
規制強化のポイントと狙い
CNIPAは、党中央・国務院の「知的財産保護強化」方針に基づき、「誠実・公正な商標使用」を推進しています。これまでの「登録」重視から、実態としての「使用」重視へと監視フェーズが移行しており、特に以下の3点が厳格に審査されます。
- 消費者の誤認防止(品質、成分、産地の偽装排除)
- 登録商標の適正使用(勝手な改変や不正利用の禁止)
- 商標代理機関の健全化(悪意ある登録・手続きの排除)
【要注意】重点的に取り締まられる禁止行為
今回の通知で明示された、規制対象となる具体的な行為は以下の通りです。
1. 誤認を招く「未登録商標」の使用
商標登録されていないにもかかわらず、以下の表現を用いて消費者に「高品質」「特殊な製品」であると誤解させる行為は厳禁です。
| 分類 | 規制されるキーワード・表現例 |
| 特別・高級感 | 「専供(専用供給)」「特供」「極品(最高級)」「国(国産)」 |
| 成分・品質 | 「富硒(セレン含有)」「有機(オーガニック)」「零添加(無添加)」「100%」 |
| 製法・起源 | 「手工(手作り)」「手打(ハンドメイド)」、地名、年号 |
2. 消費者をあざむく「不正な」使用
登録商標であっても、その使い方が実態と食い違っている場合は処罰対象となります。
- 登録商標を商品名や広告と不正に組み合わせ、品質・産地・製法について実態と異なる印象を与える行為。
- 登録された商標のデザインや内容を勝手に変更して使用し、消費者を惑わせる行為。
3. 商標表示の偽装・義務違反
- 偽装表示: 未登録商標に登録マーク(®)を付ける、または登録商標であるかのように偽る行為。
- 表示義務違反(タバコ等): 特に電子タバコ等の新型たばこ製品において、法律で義務付けられている「登録商標」を使用せずに販売する行為。(※中国ではタバコ類は商標登録が販売の必須条件です)
4. その他の不正使用
- 「馳名商標」の悪用: 「馳名商標(有名商標)」という文言を広告で強調し、過度な宣伝を行うこと。
- 団体・証明商標の不正使用: 組合などが定めた品質基準や管理要件を満たさないまま、その商標を使用すること。
企業への影響と今後の行政対応
行政執行の迅速化
CNIPAは市場監督部門および地方当局と連携し、違法情報の調査・処分を迅速化します。特に「食品」「医薬品」「子供向け用品」「家電製品」など、安全・健康に関わる分野は重点監視対象となります。
商標代理機関への締め付け
商標代理機関に対しても信用評価体制が導入され、悪意ある出願や不使用取消の不正代行などへの監視が強化されます。信頼できる代理機関の選定がこれまで以上に重要になります。
まとめ:日本企業・海外企業に求められる対応
今回の通知により、中国における商標制度は「登録さえすればよい」という段階から、「正しく使用しているか」が問われる段階へと明確にシフトしました。
中国市場でビジネスを展開する日本企業は、以下の3点を早急に確認する必要があります。
- パッケージ・広告の総点検
「オーガニック」「手作り」「No.1」「最高級」などの強調表現が、中国の広告法や商標法に抵触していないか、消費者に誤解を与えないか再チェックを行うこと。 - ®マークと登録内容の整合性
未登録商標に®を付けていないか、あるいは登録されたデザインを勝手にアレンジして使用していないかを確認すること。 - 商標代理機関の信頼性確認
依頼している商標代理機関が、現地の信用評価でブラックリスト入りしていないか、適正な業務を行っているかを見直すこと。
中国当局は「消費者の安全・健康」に関わる分野から順次取り締まりを強化する方針です。該当するメーカーは、登録状況だけでなく、店頭やECサイトでの「実際の見せ方」を含めた包括的なブランド管理体制の見直しが急務となります。
商標に関するご相談などございましたら、お気軽にお問い合わせください。
