中国の商標早期審査制度が改正──日本企業は利用できるのか?

中国の商標早期審査制度が改正──日本企業は利用できるのか?

2025年7月、中国国家知識産権局(CNIPA)は「商標登録出願早期審査弁法」を改正・即日施行しました。

 戦略的新興産業や未来産業、省政府が推進する重点産業チェーンなどを対象に、審査期間を最短20営業日に短縮する制度です。

一見すると、日本企業にとっても商標権の早期取得を後押しする制度に見えますが、実務的には国外出願人がこの制度を利用するための条件は極めて厳しいのが現状です。本記事では改正の概要と、特に日本企業が直面する課題、準備のポイントを整理します。


制度改正の概要

対象分野の拡大

改正により、以下の出願が早期審査の対象となります。

  • 商業航空宇宙、ドローンや無人航空機など、深海技術などの戦略的新興産業
  • バイオ製造、量子技術、身体化知能(エンボディドAI)、6Gなどの未来産業
  • 省政府が推進する重点産業チェーンで既に商標が使用されているケース
  • 国家・省レベルの重要プロジェクトやイベント、博覧会関連
  • 公共の緊急事態(重大災害や公衆衛生事案など)に直接関連する案件

手続きと期間

  • 要件を満たした場合:20営業日以内に審査完了
  • 要件不備の場合:5営業日以内に通知
  • 申請は電子方式必須、団体商標・証明商標は対象外

実務上の最大の壁:「推薦意見書」の取得

制度上、早期審査申請には以下のいずれかの推薦書類が必要です。

  • 中央・国家機関、省政府またはその弁公庁発行の推薦意見書
  • 省知的財産管理部門発行の審査意見

日本企業にとっての現実

中央や省政府の推薦意見書は、通常は国内(中国)企業や国内重要プロジェクトが対象であり、外国企業が取得するのは極めて困難です。

比較的可能性があるのは、省知的財産管理部門による審査意見の取得ですが、これも対象分野や必要書類のハードルは高く、現地政府との関係構築が前提となります。

証明資料の例(日本企業の場合)

出願理由ごとに、以下のような証明資料が求められる可能性があります。

第2条(1) 新興産業/未来産業の場合

  • 製品・技術開発計画書
  • 特許登録証
  • 製品上市計画
  • 商標使用の緊急性を説明する文書

第2条(2) 重要イベント/博覧会の場合

  • 出展契約書
  • 省レベル以上の政府機関や主催者からの招待状/確認書
  • 展示会準備進捗証明

第2条(4) 公共事件関連の場合

  • 中国政府の調達契約
  • 省レベル以上の緊急管理部門発行の許可証
  • 突発事件との直接的関連性の説明

制度活用の現実的な可能性

活用が見込めるケース

  • 中国現地法人があり、現地政府との連携実績がある
  • 省レベルの重点産業に位置付けられた共同プロジェクト
  • 中国での重要展示会や国家プロジェクトへの参加が確定している

難易度が高いケース

  • 中国での事業実績や関係省庁との接点がない
  • 対象分野や条件に合致しない一般消費財ブランド
  • 推薦意見書の発行根拠となる事業証拠を準備できない

日本企業が取るべきアクション

  • 対象分野と省レベル政策の調査
  •  自社の事業が戦略産業や重点産業に該当するかを事前確認。
  • 現地代理人・パートナーとの連携
  •  推薦意見書や審査意見取得には、現地での交渉・調整が不可欠。
  • 証拠資料の準備
  •  開発計画、契約書、許可証などの一次資料を揃えておく。

まとめ

改正された早期審査制度は、中国国内企業にとっては商標権の迅速取得を可能にする有力な手段です。しかし、日本企業がこれを活用するためには、推薦意見書取得という高いハードルを越える必要があり、現実的には利用できるケースは限られます。

制度の趣旨や要件を正しく理解し、無理に早期審査を狙うよりも、通常の審査手続を前提に早めの出願計画を立てることが安全策です。そのうえで、対象条件に合致する機会があれば、現地関係者との連携を強化し、早期審査申請に臨むのが現実的だと考えます。