連日メディアを賑わせている相撲界。元横綱日馬富士の暴行事件など、昨年から不祥事で大揺れだった大相撲。心機一転で迎えたはずの初場所は6日目の19日、横綱稀勢の里が白鵬に続いて途中休場となり、東京・両国国技館にはファンや関係者のため息が広がりました。
日馬富士事件では相撲協会の”最悪マネジメント”が露呈しましたが、”商標マネジメント”はどのようなものなのでしょうか。
国内商標データベースで、”公益財団法人日本相撲協会”が権利者となっている商標は29件。「日本相撲協会、国技館、相撲、」等、相撲運営に関わる商標名が主となった取得がされています。画像出典:J-platpat(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/all/top/BTmTopPage)
また、区分は9,16,21,38,41類を主としての出願。指定商品は下記通り。
相撲運営に関わる区分は、”スポーツ及び文化活動”等が対象となる41類です。その他区分における指定商品を見てみると、一般的に想像される事業内容とは一致しがたいような内容に感じますが、上記内容での取得を主とした登録となっていました。
気になったのは力士の四股名(しこな)の確認ができなかったことです。
四股名(しこな)とは、相撲における力士の名前です。”白鵬”や”稀勢の里”がこれに当たります。相撲の世界では、日本相撲協会に四股名を登録することで、四股名を名乗っています。しかしながら、日本相撲協会に四股名を登録=商標登録ではありません。商標登録状況はどのようになっているのでしょうか。
四股名の商標登録の現状
通算勝利数ランキングより、国内商標データベースで四股名を検索した結果がこちら。
3位「千代の富士」は本人による登録。また、21位「武蔵丸」は本人以外による登録が確認できました。その他有名力士の四股名の登録は確認できませんでした。こちらの登録については追ってご説明いたします。
一方、中国データベースでは「白鵬」という商標が「白鵬」により出願がされていましたが、詳細を確認したところ第三者による出願であることがわかりました。
画像出典:中国データベース(http://wsjs.saic.gov.cn/txnS02.do?locale=zh_CN)
また、「貴乃花」という商標の出がもあり、こちらも第三者による出願であることがわかりました。
画像出典:中国データベース(http://wsjs.saic.gov.cn/txnS02.do?locale=zh_CN)
国内での商標登録状況を見ると消極的な登録状況であることが伺えます。四股名の登録は不可能なのでしょうか。
四股名の登録は可能なのか
芸能人の芸名が本人以外の者によって商標出願されたり、芸能人が所属する芸能事務所が芸名やグループ名称の商標出願をしていることに伴うトラブルなどが報道されています。四股名においてもこれと同様の芸名のようなものではないでしょうか。では、商標法において、芸名や有名人の名前を、商標登録することは可能なのでしょうか?
有名人やタレント本人が、自分の芸名や名前を商標登録することに問題はありませんが、他人により商標登録することは原則としてできません。
第4条第1項第8号
他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)
上記、商標法に記載がある通り、”本人の承諾を得た上であれば”他人の名前で商標登録を受けることができます。芸能事務所が芸名やグループ名称の商標出願しているのはこの事例です。
先ほど国内商標出願状況をご紹介しましたが、四股名の登録において①活動時期や②出願区分、も大きく関わってくるようです。
ランク外「旭富士」は1992年に引退をしております。引退後に出願されている「旭富士」商標は他者による出願で登録に至っています。また、21位「武蔵丸」の出願日は1992年であり、この当時は現役の力士でありましたが、他者による登録が認められています。「武蔵丸」は人気も知名度も高い力士でありましたが、自動車関連が対象の12類の出願であったことから、他者による登録が認められたのです。①活動時期や②出願区分によっては、他者による四股名の登録が可能であることがわかります。
続いて、四股名の使用状況を確認していきましょう。
四股名を付したグッズ販売の現状
相撲運営における主な収入源は、チケットの販売と、グッズの販売が挙げられます。特にブランド力の高い人気力士の四股名が商品に付されることが多いです。下記、相撲グッズサイト内においても、人形、手形、キーホルダー、飲食料品等をはじめ、多種多様のグッズ販売をしていることが確認できると共に、相撲協会の収支報告書によると、平成28年度における広告物販事業の収益は凡そ4億円であることが記されており、グッズ販売による収益が非常に大きな収益源であることが伺えます。
画像出典:http://shop.kokugikan.jp/
四股名の商標登録状況や、使用状況を確認した上で相撲協会の理想的な「商標マネジメント」を考えます。
[su_heading size=”15″]相撲協会の理想的な「商標マネジメント」とは[/su_heading]
[su_box title=”登録商標の定期的な見直し”]
商標は登録を一度したからといって、今後同一の文字列・ロゴでの取得をすることが不要というわけではありません。新しい事業展開があった場合などには、都度商標区分の確認が必要です。検討をする時期の例は以下の通りです。
■ 新規事業立ち上げ時
■ 海外進出検討時
■ 商標制度の変更時
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[su_box title=”展開するグッズに応じた商標出願”]
相撲に限らずスポーツ全般に共通して、人気や著名度の高いスポーツ選手やチーム名を付したグッズ販売の展開が行われることがメジャーです。
近年は「スージョ(相撲好きな女性)」や「カープ女子(広島カープが好きな女性)」等、女性からのスポーツ人気の高まりから、女性の購買力を高めるようなポーチや鏡等のグッズ展開が増えていると言います。化粧品なら3類、鞄なら18類など、展開するグッズに応じた商標出願が必要になります。四股名を決定する際には、関連する事業区分での商標調査は最低限必要な対応となるのです。
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[su_box title=”所有権を明確に定める”]
正しい商標管理としては、日本相撲協会が商標権を一元管理し権利行使を行うことが合理的ではないかと考えます。一方、引退後もその四股名を使用してリポーターやタレント活動を行う元力士の方も多いことも考慮する必要がありますので、日本相撲協会が商標権を取得する際は”引退後の商標権の所在等について”を契約で明確に定め、引退後に四股名の所有権について揉め事が起こらない体制作りをしておくことが必要であると言えます。
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「十文字」という四股名はよほどの相撲愛好家でなければ、力士の四股名と認識できない可能性もあることから、現役時に他者による登録が認められています。四股名も芸名と同様に他者により商標登録することは原則としてできないとあるものの、他者による登録が認められるケースもあることがわかります。現役で活躍する力士の四股名が他者に登録されてしまい、その事業範囲が活動領域に含まれる場合、大きな影響を及ぼします。適切な権利保護及び、権利保護の際に引退後の所有者を双方同意の上で明確に決めておくことが非常に重要ではないでしょうか。