「デジタルビデオカメラ」や「テレホンカード」 などの一般名称は識別力を持たないため、商標登録の対象とはなりませんが、構成部の一部を取り出して、「デジカメ」や「テレカ」とし新たなオリジナリティある略語を造語とすることで、類似が存在しない限りは商標として登録ができる可能性があります。
このように、一般名称の構成部の一部を取り出した略語のネーミングで成功をおさめているものとして「フルグラ」が挙げられるのではないでしょうか。画像出典:J-platpat(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/all/top/BTmTopPage)
「フルグラ」は「フルーツグラノーラ」の略語であり、カルビー株式会社が1991年から製造販売している大ヒット商品です。
この、「フルグラ」は新製品ではなく1989年に「グラノーラ」として販売が開始された商品でありますが、2年後の1991年にフルーツを加えた「フルーツグラノーラ」に変わり、2011年に「フルグラ」としてネーミングが変更され販売が開始されました。ネーミング変更が功を奏したのか、爆発的なヒット商品となり、グラノーラ市場における起爆剤となったのです。参照:http://www.bizcompass.jp/factory/003.html
「フルグラ」(第4788975号)商標はカルビー株式会社により2003年に出願がなされ、2004年に登録がされており、その後パッケージに施されているロゴ商標「§フルグラ」(第5712337号)が2014年に登録がされています。画像出典:J-platpat(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/all/top/BTmTopPage)
2011年に「フルグラ」として販売が開始されていますが、それより8年も前に「フルグラ」商標の出願に至っていることがわかりました。その後売り上げが好調であることを受け、パッケージデザインに使用しているロゴの登録やパッケージ全体のデザインの登録等、現在カルビー株式会社が所有する「フルグラ」関連の登録商標は多数存在しています。
他社における「フルーツを含むグラノーラ」の表現の仕方
2012年頃から、カルビー社の「フルグラ」の売り上げが伸びることにより、ライバル企業各社もグラノーラ市場に続々と参戦することになりました。
2006年は43億円だったグラノーラの国内生産額が、各社の販促キャンペーンが奏功するなどして30〜50代の女性を中心に浸透。13年には146億円と初めて100億円を突破すると、さらに人気は高まって15年には369億円に拡大しました。
先述した通り、「フルグラ」はカルビー社の登録商標のため、他社によってフルーツグラノーラを「フルグラ」と付して販売をすることはできません。画像引用:http://mainichi.jp/articles/20160824/k00/00m/020/093000c
現在日本商標で「グラノーラ」を含む登録商標は54件存在しています。日清シスコ株式会社による「ごろっとグラノーラ」(登録5851502)や「ごろっと果実のグラノーラ」(登録5694156)や「ごろっとグラ」(登録5658439)、アサヒグループ食品株式会社による「バランスアップ\モーニンググラノラ」(登録4706048)等の登録があり、グラノーラ市場が白熱していることは、登録商標の多さからも伺えます。
「フルーツを含むグラノーラ」は多数の企業から販売していることが確認できますが、カルビー社以外の企業は「フルグラ」という表現ができないため、「フルグラ」の表現以外で「フルーツを含むグラノーラ」を表現することか、一般名称である「フルーツグラノーラ」をそのまま使用することでしか、表現する術がないのです。
他社との差別化を加速させる「フルグラ」の登録商標たち
カルビー社は更に他社との差別化を加速させるべく、「フルグラ」関連の登録商標への注力を加速しています。下図はカルビー社の登録商標の一例です。
市場に出ているグラノーラ商品はパッケージが非常に似ているため、「フルグラ」の文字を囲むリボン枠の登録(①)を行うことで、「フルグラ」のパッケージ表現のブランド力向上に力を入れ、他社との差別化を図っていることが伺えます。また、「フルグラ」のローマ字表記「FURUGURA(②)」での権利化を行うことで、フルグラの独占力を高めています。
「フルグラビッツ(③)」はグラノーラとドライフルーツを球状に固めたもので、2次期シリアル事業の戦略として同社が全国発売すると発表した商品です。朝の忙しい時間の朝食をなるべく簡略化させたいという人も、手軽に食べることができる「フルグラビッツ」への展開も他社との差別化を図っていることを感じさせられます。
Granolife(④)は、シンプルなパッケージが目を引くおしゃれなパッケージで、SNSへの投稿も意識した「フルグラ」のブランディング化が伺えるのではないでしょうか。
画像出典:J-platpat(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/all/top/BTmTopPage)
その他、「ちょいグラ」(商願2017-102092)や「マイグラ」(登録5944761)、「カレグラ」(登録5928129)、「朝グラ」(登録5744325)等の複数の登録商標から、グラノーラ市場への更なる戦略の加速が伺え、「フルグラ」のような略語商標名の有効な活用法や優位性を知っているからこその権利化であることが伺えます。
他の略語商標
「サラダドレッシング」の略語である「サラドレ」(登録1126988)は日清オイリオグループ株式会社により登録がされています。ここ数年、健康志向から油分を控えた商品が人気であることから、健康志向の象徴であり、ドレッシングと関係性の強い「サラダ」と掛け合わせた略語である「サラドレ」は今後、「フルグラ」に次ぐドレッシング業界の起爆剤になるかもしれません。
また、「レギンスパンツ」のの略語である「レギパン」(登録5233418)は株式会社トーヨーカ堂により登録がされています。レギンスパンツは女性ファッションのトレンドアイテムであり、テレビやファッション通販サイトで頻繁に耳にしますが、被服に対して「レギパン」という略語を使用することができるのは、商標権者のみであり、安易に「レギパン」という表現はできないのです。
(左図:日清オイリオグループ株式会社「サラドレ」http://www.nisshin-oillio.com/company/news/archive/2013/20130115_112842.shtml、右図:ファッションサイト内で使用されている「レギパン」https://search.rakuten.co.jp/search/mall/%E3%83%AC%E3%82%AE%E3%83%91%E3%83%B3/100371/)
略語商標のビジネス活用における注意点とは
[su_heading size=”15″]識別力を有する前の出願[/su_heading]
略語であっても、すでに多くの人が使うようになっている略語は登録になりません。実際に「スマートフォン」の略語である「スマホ」や、「パーソナルコンピューター」の略語である「パソコン」等は登録商標として存在していません。
一方で、必ずしも略語が商標登録にならないという訳ではありません。むしろ、一般的に使われるようになっていなければ、略語は、立派な登録の対象といえます。例えば、「デジカメ(登録2122636)」という言葉は、現在では誰もが使うようになっていますが、三洋電機株式会社の登録商標です。当時は、新しい略し方だったため、登録に至ったことが考えられますね。
このように、今は登録できるけれど、将来は普通名称化して登録できなくなるということはよくありますので、広く使用され識別力が無いと判断される前に、早めの商標登録した方が良い理由の一つと言えます。
[su_heading size=”15″]商標調査/登録の必要性[/su_heading]
使用しているネーミングが、一般名称であると思っていて商品名に使用をして販売していたところ、他社の登録商標であった。という場合は商標権の侵害行為に当たります。商標権を侵害している場合、商標権者による損害賠償請求権と差止請求権が行使されてしまいます。
- 事前に商標調査を行い侵害の有無を確認する
- 自社にて出願・登録し、他社からクレームを受けることのない独占権を確保する
- 使用許可を行う・受ける場合は必ず書面を取り交わし、後々のトラブルを回避する
国内外問わず、トラブルになってから解決しようとすると商標登録する場合の何十倍ものコストや時間がかかってしまいます。商標登録は費用対効果が高いので、トラブル回避のためには自社商標は速やかに登録してしまうのが一番です。これを機に、事業計画に商標についての戦略を盛り込むことをお勧めします。