2025年7月、カタール商標庁は商標制度におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)試験運用を開始しました。これにより、同国における商標登録の一部の証明書が電子形式で発行されるようになり、紙媒体の証明書は提供されないケースも生じています。
本稿では、電子公報や電子登録証明書の導入状況、併用運用の実態、今後の完全電子化の見通しなどを解説します。
カタール商標庁のデジタル化施策の概要

開始時期と取り組みの背景
カタール商標庁は2025年7月より、デジタルサービス導入の試験フェーズを開始しました。この施策は、同国政府が推進するe-Government戦略の一環であり、行政手続全般のオンライン化を目指す動きと連動しています。
知的財産分野においても、行政効率の向上と、国内外の権利者に対する利便性の強化が重要な目的とされています。今回の取り組みは、その実現に向けた第一歩と位置付けられます。
対象となるサービスと運用形式
今回導入された主な変更点は以下の2点です。
- 商標公報(Trademarks Official Gazette)の電子発行
従来紙面で提供されていた公報が、試験的に電子発行されることとなりました。 - 商標登録証明書の電子化
登録案件のうち一部については、電子証明書のみが発行され、紙媒体の証明書は発行されません。一方で、引き続き紙媒体で発行される案件も存在します。
このように、電子と紙媒体の併用による「移行期間(トランジション)」を設けた運用体制が採用されており、完全電子化に向けた準備段階として機能しています。
移行期間の意味と、完全移行への見通し
現在は、デジタルと紙媒体のデュアル体制による試験運用段階であり、商標庁側も段階的な導入を図っています。
この柔軟な併用モデルは、利用者の混乱を最小限に抑えながら、新システムの安定性を検証する目的で設けられています。
とはいえ、長期的には完全なデジタルシステムへの移行が予定されており、試験導入の結果を踏まえ、運用範囲が拡大していく可能性が高いと考えられます。
企業としては、以下のような準備が求められます。
- 社内運用ルール・保存方針の見直し
- 電子証明書の受領・確認フローの整備
- 外部代理人との連携・情報収集体制の強化
他国の動向と比較した場合のカタールの位置付け
カタールにおける今回の動きは、中東・湾岸地域における商標制度近代化の流れの一環でもあります。たとえば、以下の国でも同様の動向が見られます。
- UAE(アラブ首長国連邦):すでにオンライン商標出願や証明書の電子交付が進行中
- サウジアラビア:デジタル化施策とともに、手続速度の向上を実現
カタールもこれらの動きに呼応し、知財インフラの国際標準化と投資誘致を狙っていると見られます。
このような地域的な潮流を理解したうえで、各国の制度を比較・整理して対応することが、実務上ますます重要となっています。
まとめ:企業担当者が今すぐできる対応とは
カタール商標庁による電子証明書と電子公報の導入は、今後の実務に直接的な影響を及ぼす施策です。現在は試験運用中であり、段階的な導入が続く見込みですが、最終的には完全なデジタル化が見込まれます。
企業としては、今後の展開を見越しつつ、次のような対策を早急に講じるべきです。
- 電子形式の証明書を前提とした内部体制の整備
- 現地代理人や外部弁理士との情報連携強化
今後も各国で知的財産制度のデジタル化が進展する中、制度変更の早期把握と機動的な対応体制の構築が、企業のブランド戦略と権利保全の鍵を握ることになります。