ICANN82

ICANN82ミーティングハイライト~新gTLD、DNSセキュリティ、Web3ドメイン、移管ポリシーの最新動向~

 2025年3月8日から13日にかけて、ワシントン州シアトルでICANN82が開催されました。
 今回の会議では、新gTLD(トップレベルドメイン)の申請スケジュール、DNSセキュリティの強化、Web3ドメインの今後の方向性、ドメイン移管ポリシーの改定、インターネット調整ポリシー(ICP-2)の更新、Universal Acceptance(UA)10周年の進捗など、インターネットの運用に関わる重要な議論が交わされました。本記事では、ICANN82の主要なトピックを、専門用語の説明を補いながら分かりやすく解説します。

新gTLDのセカンドラウンド:2026年前半に申請受付開始予定

新gTLDとは?

 gTLD(ジェネリック・トップレベルドメイン)とは、「.com」「.net」「.org」などの一般向けのトップレベルドメインを指します。これに対して、「.jp」や「.uk」のような国ごとのドメインはccTLD(国別コードトップレベルドメイン)と呼ばれます。
 新gTLDとは、これら既存のドメインに加え、新しく設定されるドメインのことであり、GMOインターネットグループは過去に「.shop」や「.tokyo」などを申請し、運用しています。

今回のICANN会議では、新gTLDのセカンドラウンドに向けた具体的なスケジュールが発表されました。

📌 スケジュールのポイント
✅ Applicant Support Program (ASP) :2025年11月19日まで受付
✅ Registry Service Provider (RSP) Evaluation Program:2025年5月20日まで受付
Applicant Guidebook (AGB)のパブリックコメント :2025年4月7日まで受付

📌 プログラム詳細

① Applicant Support Program(ASP)
 新gTLDの申請は費用が高額であり、また、専門的な知識も求められるため、発展途上国や地域支援が必要な企業・団体にとってはハードルが高いのが現状です。そのため、ICANNはASPを通じて、申請費用の一部補助や、技術的・手続き的なサポートを提供しています。すでに17件の申請が受理されており、2025年11月19日まで受付が継続されています。

② Registry Service Provider(RSP)Evaluation Program
 新gTLDを運用するためには、DNSの管理やセキュリティ対策、ドメイン登録システムの構築など、技術要件を満たす必要があります。このプログラムは、事前にICANNがレジストリ事業者(TLDの管理を行う企業・団体)の技術能力を評価することで、申請後の審査をスムーズに進めることを目的としています。現在23件のRSP申請が進行中であり、2025年5月20日まで受付が続きます。

③ Applicant Guidebook(AGB)のパブリックコメント
 新gTLDの申請ルールを定める「Applicant Guidebook(AGB)」は、すべての申請者が従うべき基準を示す重要な文書です。現在、AGBの最終版に向けたパブリックコメントが実施されており、2025年4月7日まで意見を提出することが可能です。新gTLDの申請を検討している企業は、このガイドラインに重要な変更がないか確認することが推奨されます。

DNSセキュリティの強化:AI活用による対策とポリシーの見直し

 DNS(Domain Name System)は、インターネット上の「電話帳」のような役割を果たし、ドメイン名をIPアドレスに変換する仕組みです。例えば、ユーザーが「example.com」と入力すると、DNSはそのドメイン名を対応するIPアドレスに変換し、適切なウェブサイトに接続します。しかし、この仕組みを悪用したフィッシング詐欺やマルウェア配布などの問題が増えており、ICANNはDNSのセキュリティ強化を進めています。

📌 主なセキュリティ対策
✅ AIを活用した不正ドメインの検出(フィッシングサイトのロゴやページ内容を自動解析)
✅ DNSブロッキングポリシーの見直し(2012年の方針を再評価し、より効果的な対策を導入予定)

 AIの導入によって、より迅速かつ正確に不正ドメインを特定できる可能性がありますが、誤検出による影響や、ICANNの新ポリシーがどのように適用されるかについては慎重な議論が必要です。

インターネット調整ポリシー(ICP-2)とRIRのガバナンス見直し

 ICP-2(インターネット調整ポリシー)は、IPアドレスの管理を担う地域インターネットレジストリ(RIR)の枠組みを定めるルールです。RIRは、ICANNのもとで地域ごとにIPアドレスの分配・管理を行う機関で、世界には以下の5つが存在します。

  • ARIN(北米)
  • RIPE NCC(ヨーロッパ・中東)
  • APNIC(アジア太平洋)
  • LACNIC(中南米・カリブ)
  • AFRINIC(アフリカ)

今回のICANN82での議論

📌 ICP-2の改訂
✅ ICANNは2025年末までにICP-2の更新案を決定予定です。

📌 RIRのガバナンス変更
✅ IPアドレスの管理基準が見直される可能性があります。

💡 ポイント
  IPアドレスはインターネットの根幹を支える重要なリソースであり、管理ルールの変更は企業のネットワーク運用やセキュリティ方針に影響を及ぼす可能性があります。特に、IPv4の枯渇やIPv6移行に向けた施策が今後の焦点となるでしょう。

ドメイン移管ポリシーの変更検討:60日ロックの撤廃、セキュリティ強化、一括移管の簡略化

 ドメイン移管(レジストラ間のドメイン名の移動)に関するルールの改訂が検討されています。これまで、所有者情報を変更すると60日間移管できないルールが適用されていましたが、今回の改定により撤廃された場合、より柔軟な移管が可能になる予定です。

今回の主な変更案

📌 60日間の移管ロック撤廃
✅ 所有者情報の変更後も、即時に別のレジストラへ移管できるようにする案が検討されています。

📌 セキュリティ強化
✅ フィッシングやマルウェア配布の疑いがあるドメインについて、レジストラが移管を拒否できる仕組みの導入が議論されています。

📌 一括移管の簡略化
✅ レジストラの統合やM&Aに伴う大規模なドメイン移管の円滑化を目的とした手続きの簡素化が提案されています。

💡 ポイント
 これらの変更が実施された場合、ドメイン管理の柔軟性が向上する一方で、不正対策も強化されます。特に、企業の合併・買収(M&A)に伴う大規模なドメイン移管が円滑に進められる点は、事業継続性の確保において重要な要素となります。

Web3とドメインの未来:NFTドメインとICANNの関係

 近年、Web3の進展とともに、NFTドメイン(ブロックチェーンドメイン)が注目を集めています。NFTドメインは、ブロックチェーン技術を活用し、所有権が明確に保証される新しいタイプのドメインであり、従来のDNS(Domain Name System)とは異なる管理体系を持っています。
 ICANNはこれまで、DNSを基盤とした中央管理型のドメインシステムを運用してきましたが、NFTドメインの登場により、分散型管理の可能性が議論されるようになっています。今回のICANN82では、NFTドメインが今後ICANNの管理枠組みに組み込まれるのか、それとも独立した仕組みとして発展するのかについて活発な議論が行われました。

今回のICANN82での議論

📌 ICANNの立場
✅ NFTドメインの拡大を「監視しつつ、今後の対応を検討する」
ICANNは現在、NFTドメインを正式なDNSの一部として統合する計画は持っておらず、引き続き市場の動向を注視する方針を示しました。

📌 主要プレイヤーの動き
✅ Identity Digital(旧Donuts):新gTLDセカンドラウンドで200件の申請を予定
✅ Nova Registry(.link):200件の新gTLDを申請予定
✅ Unstoppable Domains:約40件のTLD取得を目指し、NFTドメインの市場拡大を推進

📌 新たな技術動向:DomainFiプロトコル
✅ スタートアップ「D3」が発表した「DomainFiプロトコル」

 DomainFiプロトコルは、ドメイン名をトークン化し、ブロックチェーン上で管理することで、ドメインの売買市場をより透明化する仕組みを提供するものです。これにより、従来のドメインの売買における不透明な価格設定や所有権移転の遅延を改善し、よりスムーズな取引を 実現することを目指しています。

💡 ポイント
 NFTドメインは、従来のDNSとは異なり、中央機関の管理を受けずに、ブロックチェーン上で所有権が記録されるため、検閲耐性が高く、永続的な所有が可能という特徴を持っています。一方で、既存のブラウザやメールシステムとの互換性が課題となっており、実用性を高めるための技術開発や規格の標準化が求められています。
 DomainFiプロトコルのような新たな技術が登場する中で、NFTドメイン市場の透明性向上と、ICANNが管理する従来のドメインシステムとの調整が今後の課題となります。ICANNとしては、DNSの枠組みを維持しつつ、新たな技術との連携や調整が必要になる可能性があり、今後のWeb3ドメインの動向は引き続き注視する必要があります。

Universal Acceptance(UA)10周年の進捗

 Universal Acceptance(UA)は、すべてのドメイン名やメールアドレスが正常に処理されることを目指す取り組みです。特に、新gTLDや多言語対応ドメインの普及に伴い、すべてのアプリケーションで正しく認識される必要があります。

📌 今回のICANN82での議論
✅ UAの進展:技術対応が進む一方で、依然として課題が残ります。
✅ 今後の課題:より多くのソフトウェアやウェブサービスがUAに対応する必要がある

まとめと今後の見通し

 ICANN82では、新gTLDのセカンドラウンド、DNSセキュリティの強化、ドメイン移管のルール変更、ICP-2の見直し、Web3ドメインの動向、Universal Acceptance(UA)の取り組みについて、幅広い議論が行われました。

📌 今回のポイント
✅ 新gTLDのセカンドラウンドは進行中:2026年前半の申請受付開始を目指していますが、過去の遅延を考慮すると慎重な対応が求められます。
✅ DNSセキュリティの強化:AIを活用した不正ドメイン検出やDNSブロッキングポリシーの見直しが進められています。
✅ ドメイン移管がよりスムーズに:60日ロックの撤廃や一括移管の簡略化により、レジストラントの利便性が向上しました。
✅ ICP-2の改訂が進行中:RIRの運営やIPアドレス管理ルールの見直しが進められています。
✅ Web3ドメインの動向に注目:NFTドメインの拡大やDomainFiプロトコルの発表など、新しい技術とICANNの関係が議論されました。
✅ Universal Acceptance(UA)10周年:多言語ドメインや新gTLDの普及に向けた取り組みが進んでいます。

 新gTLDのセカンドラウンドが進む中、企業にとってドメイン戦略の重要性がますます高まっています。 独自のTLDを持つことで、ブランドの信頼性を強化し、より安全なオンライン環境を構築することが可能になります。
 特にブランドTLD(.ブランド)は、なりすまし対策やフィッシング被害の防止に有効であり、企業のデジタル資産を守る強力なツールとなります。新たなgTLDの機会を最大限に活用するために、最適なドメイン戦略の策定を私たちがお手伝いいたします。

\ブランドTLDの詳細は GMOブランドセキュリティ でご覧ください。/