メタバース・NFTの興隆にみる商標上の対応の必要性とは?

2021年10月28日にFACEBOOKが社名をMETAに変更したくらいから、多くの方がメタバース、NFTといった新しいITキーワードを知り始めたのではないでしょうか。そもそもこのキーワードを正しく理解いていない方も知財関係者には多いと思いますが、知識を理解しつつ、知財にどのような関わりがあるものなのかを考察してみようと思います。

メタバース・NFTとは?

メタバースとは、メタ(超、高次の)、ユニバース(宇宙)を組み合わせた造語ですが、仮想空間において様々なコミュニケーションや活動が行われる人工的な環境のことです。ソニーコンピュータエンタテインメントから発売されているPlaystationVRをご存じの方も多いと思いますが、VR※ゴーグルをつけて、没入感を味わいながら仮想空間を自身やアバターが現実世界のように活動・体験することがメタバースの一例といえます。

メタバースの世界がもっと成熟してきた際には、概念ももっと広くなりそうですが、今の時点では、アバターを利用した仮想空間での活動・体験と知っておけば間違えはなさそうです。

※VRとは、Virtual Realityの略です。

NFTは少しイメージがしにくいところがあります。NFTとは、Non Fungible Tokenの略、日本語では「非代替性トークン」と言われています。日本語訳をしているのかわからないくらい理解がしづらい言葉ですが、分解して考えます。

まず、トークンとは、日本語訳では、証明、印という意味です。非代替性とは、言葉をそのまま理解すると、代替することができない、という意味です。つまり、代替することができない証明をNFTはしてくれる技術です。

もう少し詳しく説明をしていきます。

世の中に限定品としておもちゃや靴が売っているケースがあります。そのおもちゃや靴には必ずといっていいほどクレジットナンバーなどがあり、希少性が高いものであることが示されます。それによって、本物であり、自分の所有であることが証明しやすく、資産的価値の獲得が可能になっています。

これをデジタルコンテンツの中でも行っていると考えてください。デジタルコンテンツってどうでしょうか。コンテンツ自体の所有者をそのコンテンツだけから判断することは難しいと思いませんか。それはデジタルコンテンツに所有情報が載っていないからです。

こうしたデジタルコンテンツの客観的に正しい情報把握の仕方を実現している技術がNFTです。

NFTを利用することで、デジタルコンテンツの作成者、所有者情報が明らかとなります。その情報はブロックチェーン※により記録がされていくため、改ざんが不可能であり、デジタルコンテンツの真実性を高めてくれることになります。

※ブロックチェーンとは、情報を記録するデータベース技術の一種で、ブロックと呼ばれる単位でデータを管理し、それをチェーンのように連結してデータを保管する技術です。そのブロックに一つ前のデータのハッシュ値を乗せることでデータのブロックの連続性を作りだします。ある人がそのブロック情報を変更しようとした場合、ハッシュ値が変更してしまうので、改ざんが起きたことがすぐにわかってしまうことになります。

パナソニックもルイヴィトンも。大企業が続々参加

どのような企業がメタバースやNFTに参加をしてきているのか、ほかの記事にも書いていたりすることですが、メジャーなところを振り返っていきましょう。

メタバースのケース

先日アメリカで開催されたCES(Consumer Technology Association)では、パナソニックがメタバース事業に参入することが発表されました。具体的には、パナソニックの子会社であるShiftallより「MeganeX」というVR眼鏡を発表しています。メタバースへのハードウェア面での参入といえます。

出典:2022年Shiftallニュースリリース

マイクロソフトは、ゲーム会社のアクティビジョンブリザードの買収を687億ドルで検討しているといわれています。メタバースへの参入を本格化させるための一手と注目を集めています。

Playstationを展開するソニーインタラクティブエンタテインメントがVRを販売していることから、同じくゲーム事業を展開するマイクロソフトとして、ハードウェア、ソフトウェアへの事業参入を計画することは当然のような気はしました。

また、渋谷にあるIT企業グリーは、「リアリティ」というバーチャルライブ配信アプリ上で、アバター同士がコミュニケーションをとることができるサービスを展開しはじめています。今後の展開として、仮想空間を自身の手で創造・拡張し、オリジナルアイテムの作成や販売を行うことで現実世界の収入を得ることができるクリエイターエコノミーの実現も目指しているとのことです。

NFTのケース

ルイヴィトン、GUCCIなど、いわゆるラグジュアリーブランドを中心に多くのブランドがこの分野に参戦しています。

ルイヴィトンは、創業者ルイ・ヴィトンの生誕200周年を祝うため「LOUIS THE GAME」をリリースし、そのゲーム内では、NFTアートを収集することができるような仕掛けをユーザーに提供しています。

出典:applestore/LOUIS THE GAME

ドルチェ&ガッバーナは、「Collezione Genesi」というNFTのコレクションを発表し、NFTファッション9点は、6億円ものオークションになったとのことです。NFTが起点となり、コミュニケーションや経済が形成されていることがわかります。

アディダスもNFTコミュニティのパイオニアとして知られるBored Ape Yacht Club、gmoney、PUNKS Comicの制作チームとの共同開発でNFTコンテンツの販売をしています。アディダスとしては、ビジネスを先行させるというよりも最先端のコミュニケーションに追随していくことで、その先のビジネスにつながっていく可能性があると考えメタバース・NFTを積極展開しているとのことです。

出典:OpenSea/adidas Originals: Into the Metaverse

こうしたNFTデジタルコンテンツのトレードには、必ずプラットフォームが存在しますが、国内外でのメジャーな2社を最後にご紹介します。

海外で一番有名なプラットフォームにOpenSeaがあります。OpenSeaは、世界最大規模のNFTマーケットプレイスで、2017年12月にサービスが始まりました。現在は、adidasやNBAなど有名なブランドもNFTコンテンツの販売をしています。

出典:OpenSea

日本では、GMOインターネットグループが展開するAdam byGMOが非常に有名ですが、坂本龍一氏や小室哲哉氏の音楽NFTをはじめ、作家の村上龍氏の小説NFTを販売するなど話題となっています。

出典:Adam byGMO

メタバース・NFT関連の商標権はどうなっているのか?

メタバースやNFTは新しい概念ですが、商標の側面からするとどのように保護がされているのでしょうか?

過去より3Dプリンターやクラウドなど、新しい概念がでてきた時、企業側も特許庁側もどのように対処すべきかは議論が巻き起こります。私の知る限りで各国での方針がまだでていないかと思いますので、対処療法的に各社はどのような出願をしているのかを見ていければと思います。

なお、今回はメタバース・NFTを利用する側の出願を主に確認しています。

NIKE

NFTファッションブランドを買収するほどにメタバース・NFTに力を入れているNIKEですが、US出願を見てみると、当該事業ドメインを意識した商標取得がされていました。

出典:Global Brand Database

バーチャル上のシューズやアパレルということから、9類や41類の区分指定がされ、指定商品にて具体的に商品やサービスの指定がされています。メタバース内で販売をすることを想定していますので、virtual goods、virtual footwear、virtual clothingといった指定商品の表現が並びます。

ルイヴィトン

フランスの出願(4829068)を見てみると、以下のように指定商品を指定しています。(指定商品は便宜上英訳をしております。)

出典:Global Brand Database

NIKEと同様にメタバース関連について、9類や41類を中心に区分指定がされ、指定商品に具体的な商品やサービスの指定がされています。黄色くハイライトはしていませんが、NFTの記載もメタバース関連と同じ区分に指定がされています。virtual goods以上の具体的な表記はせず、少し大きな表現で留めていることがわかります。NFTについてもNFTの〇〇といった表現まで詳細には踏み込んでいません。

L’OREAL

ファッション業界の注目が多いメタバース・NFTですが、化粧品関連のブランドもこの分野に興味があるようです。EUTMの出願(018613363)を確認したところ、メタバース・NFT関連の出願がありました。

出典:Global Brand Database

L’OREALはNIKEに似ているところがあり、virtual goods以上に詳細に、自社で販売可能性のある商品を列記するスタイルを採っています。

PIRELLI

これから参入をしてくるのではないかと予想しますが、サッカーのインテルのスポンサーを務めるイタリアを代表するタイヤブランドPIRELLIです。この企業もメタバース・NFT関連の出願をEUTM(018605126)でしています。前3社との違いは、9類や41類、42類以外にも12類や25類といった実際に形ある物を指定する区分に対してデジタルコンテンツの指定をしている点に特徴があります。

出典:Global Brand Database

物を扱う区分において、デジタルコンテンツの表現がどのように扱われるかは今後注目をしたいところです。

出願方法のトレンド

以上4例を見てみましたが、GlobalBrandDatabaseにて、キーワードとなる”virtual” “NFT”で検索をすると、この1,2年で多くの企業の出願が見られました。一つ驚くのは、日本の企業が片手で数えるくらいしか該当しないことです。

さて、出願のトレンドについてですが、出願のパターンは主に2種類あることがわかりました。

1)デジタル上のものとして扱い、9類、41類、42類などサービス区分内で商品を表現していく手法

2)デジタル上のものではありますが、1類~34類までの商品区分にデジタルな物として商品を表現していく手法

現在の主流からすると、1)のようです。まだ、各国特許庁の対応方針も明確になっていないと思いますので、今後調整はあるかもしれません。

過去を思い出してみますと、サプリメントの区分が29類や30類だったのに、時期を経て5類に遷移したこともありました。各所でこれから議論がされ、正しい区分、指定商品の分けがされるのでしょう。

多数の出願をみて感じたこととしては、確かに1)が主流なのですが、メタバース・NFTに参加している産業は様々あります。virtualという言葉を抜けば、1類~34類に該当する指定商品がサービス区分にずらっと並ぶため、サービス区分内に商品区分のサブクラスでも作ったほうが指定商品の整理はしやすいのかと思いました。このような疑問も今後のメタバース・NFTの発展を待ちつつ、知財関係者としての楽しみにしてみたいと思います。

さいごに

メタバース・NFTでサービスを提供している企業であっても出願をしていない企業は多くありました。ビジネスになるかもまだ不明確な部分もありますし、9類や42類などでインターネットサービス全般の指定商品を押さえているので、権利上の問題が生じたとしても解釈で侵害対応もできると考えているからと思います。

ただ、最近ではNFTマーケットにおいて、偽物が出品されるなどのニュース記事が掲載されるようになってきています。(エルメスのケースは有名なところです。

権利行使を確実に素早くしていくために、指定商品を具体的に明確にした権利を持っておく必要もにわかに出てきた感があります。

まずは担当として、新しい潮流をいち早く理解いただき、知財としてどのように対処をすべきか関係する部署の皆さまと一度議論をしておくことは必要です。さらに盛り上がってきたときに権利を取っていなかったということで、困ることがないように願っています。


寺地 裕樹(Yuki_Terachi)/ GMOブライツコンサルティング株式会社 営業本部 本部長 / 国内最大手情報セキュリティ企業にてSEとして従事後、GMOブライツコンサルティングに参加。法律とITとブランドのバックグランドを活かし、お客様のブランドセキュリティ向上に努めています。/ 保有資格:行政書士、知財検定2級、ITパスポート