【ブランドTLD戦略】AmazonのブランドTLD「.amazon」がようやく活用開始!サービス・ブランドから始まるドメイン戦略の変化

アメリカの多国籍テクノロジー企業であるAmazon社は、世界最大の電子商取引(EC)事業をはじめ、クラウドコンピューティング、オンラインストリーミングサービス、人工知能などICT産業を代表する企業である。

Amazon社は、レジストリとしても50件以上の新gTLDを運用している。そのうちブランドTLD※1も「.audible」「.kindle」「.prime」など10件以上取得している。しかし、今までブランドTLDの運用は、Amazon Web Services (AWS)の「.aws」に限定されていた。それは「.amazon」が委任されるまでの事情とも関連している。

※1 ブランドTLDとは?:企業の組織名、または所有するブランド名で構成されるトップレベルドメイン(Top-Level Domain:TLD)。簡単に言えば、その名の通り、ブランド名がドメインネームに使われるものです。

1.「.amazon」委任までの経緯を簡単にまとめると!

Amazon社の重要ブランドTLDである「.amazon」、日本語の「.アマゾン (xn--cckwcxetd)」、中国語の「.亚马逊 (xn--jlq480n2rg)」がようやく承認されたのは、2018年9月のことである。しかし、Amazon社はアマゾン川を囲む国々の間の交渉を通じて、「.amazon」を独占運営するのではなく、アマゾン川を囲む国々で占められる「Amazon Cooperation Treaty Organization (ACTO)」との共同運営という形を検討するなど、従来のブランドTLDと異なる新たな方向性を探らなければならなくなった。

その後もアマゾン川と接する南アメリカ大陸の国々の反対や調整により「.amazon」の方向性は不透明になり、長い年月にわたって様々な調停が行われた。その結果、最終的に「.amazon」を含む3つのブランドTLDが委任されたのは2020年6月のことである。

下記は「.amazon」を含む3TLDの委任までの経緯をまとめたものである。

「.amazon」委任までの経緯

2012年Amazon社が「.amazon」を申請。アマゾン川と接する南アメリカ大陸の国々は、これに対して反対の意見をあげていた。
2014年5月14日ICANN理事会が、「.amazon」の申請を中止させる。
2016年3月Amazon社は、ICANN理事会の決定もしくは行為に対しての異議申し立てを行うべく、第三者による独立審査を求める。
2017年5月ICANNの外部に設置された第三者機関から依頼されて実際の審査を行う、”独立審査パネル”の審尋が行われ、「ICANN理事会が採用した結論には、根拠がなかったという結果」が出される。
2018年9月16日ICANN理事会が「.amazon」に対する決定事項を採択。ようやく承認へ。
2019年6月ICANN理事会決議に対し、コロンビア政府が6月15日に再検討要求19-1を提出。再検討要求は理事会説明責任機構委員会(Board Accountability Mechanisms Committee, BAMC) にて検討され却下。ICANN65でGAC勧告が公開。GACメンバーの中でも意見相違。
2019年9月8日理事会決議では理事会説明責任機構委員会(BAMC)勧告が採択。
2019年12月17日ICANNからACTOへレター。ICANNとAmazon社がレジストリ契約の締結をもうすぐ行う旨を通告。
2020年1月~5月ACTOとICANNの間で相互に合意可能な解決策を求める数回の意見交換が行われる。 
2020年6月6月5日に「.amazon」がルートゾーンに入ったことを観測した内容が関連SNSで公開。IANAウェブサイトで「.amazon」「.アマゾン」「.亚马逊」の3TLDが5月28日に登録され、6月3日に最終更新が行われたことが確認。
2020年7月ICANNからACTOへレター。ICANNとAmazon社間のレジストリ契約が締結され、委任されたことを伝え、PICの実装についてはAmazon社とACTO間で議論することを表明。
Source:ICANN情報に基づいてGMO Brights Consulting編集

★関連記事:ついに承認された「.amazon」 従来のブランドTLDとは異なったアマゾンらしい運営はなるか?!

2.「.amazon」を用いたドメインネームが続々登場!

そして、2021年4月、ついに「.amazon」を活用したドメインネームの運用が始まった!最初に登録されRedirectionとして活用し始めたのは「ads.amazon」である。2021年3月29日登録・活用開始となった同ドメインネームは「https://advertising.amazon.com/」に転送されている。Amazon Advertisingというオンライン広告ソリューションを提供するビジネスサイトである。

出典:ads.amazon

続いて、4月22日に「kindle.amazon」と「prime.amazon」が登録・活用開始した。「kindle.amazon」はAmazon.com内のKindle紹介ページへ、「prime.amazon」はAmazon Primeサービス紹介ページへ転送されている。

2021年4月末には「alexa.amazon」「echo.amazon」「primevideo.amazon」の3つが追加された。「alexa.amazon」は4月28日に、「echo.amazon」「primevideo.amazon」は4月29日に登録され、すぐ活用開始段階に移っている。

出典:alexa.amazon

「amazon.prime」も活用開始も目立つところである。「amazon.prime」が登録されたのは2017年6月1日で、今まで活用しないまま放置していたが、「prime.amazon」の活用開始とともに5月中に同じ転送先への活用が始まったのである。

prime.amazon/amazon.prime

3.ブランドTLD「.amazon」の活用開始による今後の戦略変化は?

Amazon社はブランドTLDとして「.prime」も取得していたが、今まで同TLDを消費者向けに使用することはなかった。「.amazon」の活用開始後、続いて「.prime」の活用が始まったのは、今後Amazon社が所有している他のブランドTLDの活用可能性を示唆している。

Amazon社が取得している新gTLD

Source:GMO Brights Consulting

中でも、特にサービスブランドTLDの活用が予測される。例えば、Amazon社の有料会員サービスAmazon Primeは映画番組見放題、音楽聞き放題、好きな漫画・本読み放題、お急ぎ便の使い放題などを提供している。既に「prime.amazon」と「amazon.prime」の交互利用が始まっていることから、このような使い方は今後拡大される可能性があると見られる。ちなみに、Prime Videoサービスサイトに転送される「primevideo.amazon」も既に運用されている。

その他に、Kindle電子書籍リーダーをはじめ、さまざまな端末でKindle本、Kindleマンガ、Kindle雑誌、無料本などの読み放題サービスを提供しているAmazon Kindle Unlimitedも「.amazon」と「.kindle」を交互に利用する可能性がある。また、「.audible」もオーディオブックサービスのAmazon Audibleへの利用可能性がある。

また、今後新gTLDセカンドラウンドが始まると、Amazon社は重要なサービスブランド(Alexaなど)に対して追加申請を行う可能性もあると予測される。

4.ブランドTLD、保護ドメインから消費者向けの有効活用へ

新gTLDプログラムが始まったファーストラウンド当時、ブランドTLDは保護目的で取得する企業が多かったのが事実である。そのため、活用するより所有・維持に注力している企業も多かった。しかし、ネットワークやウェブサイトを巡る環境変化とともに、ブランドTLDを単純に保護すべき文字列ではなく、消費者向けの重要なデジタル資産として捉える企業が増えてきた。実際に活用する企業も増え続けている。

それは、取得した企業だけに利用が限定されるブランドTLDの特徴から、対外面では(1)セキュリティ担保、(2)ブランド強化、(3)デジタルプレゼンス向上などの効果が現れているからである。

消費者の間でも徐々にブランドTLDへの認知度が高まることにより、ブランドTLDは信頼できる企業のデジタル資産であり、重要なマーケティングツールの一つに変化しつつある。企業内部でも、有効なドメインポートフォリオの管理、それによる費用削減とともに、ドメイン体系を企業の狙い通りに整備できるウェブガバナンス面での有効性も高まっている。

また、ブランドTLDは企業が独自の運用方針を定めるなど、自社のドメイン運用戦略に合わせて使い方や特徴を見出すことができる領域である。このような認識の変化によって、マーケティング及びブランディング面で独自の運用方針を試す企業も多くなっている。

Amazon社は、グローバル拠点を持つECサイトのサービスサイトは今後も「amazon.com」を維持すると考える。また、同サイトと分離して運用しているコーポレートサイト「aboutamazon.com」、グループ全体の求人サイトである「amazon.jobs」は維持、または「.amazon」との相互利用をするかもしれない。

出典:aboutamazon.com

現時点では、初期「.amazon」の活用戦略は、サービスブランドから始まり、Amazon社のサービス資産とブランド資産をまとめることになると予測される。「.com」が強いAmazon社の特徴上、転送型への活用がメインになると推測するが、「.aws」のように独立して運用されるサービスサイトを立ち上げる際にブランドTLDサイト(Unique Site)を運用する可能性もある。

ようやく始まった「.amazon」の活用開始は、Amazon社にとって新たなドメインポートフォリオの構築とともに、自社の様々なブランドにおけるマーケティング・ドメインの再構築を予告しているかもしれない。


著:ブランドTLDチーム 鄭 美羅(チョン・ミラ)