イギリスのBrexitの移行期間が昨年末に終了しました。商標に関するBrexitのニュースも様々なところから発信されていますので、ご存知の方も多いと思います。
移行期間の末日である2020/12/31までに登録されたものは自動的にイギリスの商標権が設定され、それまでに登録に至っていないEUTM出願(マドプロ出願も含む)は、本年からコンバージョン申請を行って、イギリスでの手続を継続する必要がありますが、商標管理という側面で考えると、それだけで十分でしょうか。
1.代理人の選任
自動的に設定されたイギリスの権利は、権利者が手続を能動的に行ったのではなく、イギリス特許庁(UKIPO)が自動的に設定していますので、イギリスの代理人が設定されていないケースが存在してしまうことが考えられます。代理人が設定されていない権利を放置してしまいますと、UKIPOからの連絡は、登録名義人の表示通りに通知されることになります。そうしますと、現在の住所・名称で登録されていなければ、イギリス特許庁からの通知を受け取ることができなくなるおそれがあります。
また、現在の住所・名称で登録されていたとしても、担当部署や担当者は設定されておりませんので、会社宛てに郵便が届くことになり、大企業の場合には実際の担当者の手元に届かなくなるおそれが出てくる可能性が高いのではないかと考えられます。
そのため、UKIPOは、2023年12月31日までに自動的に設定されたイギリスの権利についてイギリスの代理人を選任することを求めています。
通知が適切に手元に届くようにするためにも、早い段階で代理人選任手続きがしておくのが安心です。
2.イギリスで設定される商標の特定
また、当然のことながら、自動的に設定されるイギリスの権利がどれかについて把握する必要もあります。EUTMの権利は明確ですが、マドプロの権利が問題になるかもしれません。指定国にEUが含まれているものが対象になるものの、指定国の管理をしていない場合には、一つ一つ権利の中身を紐解いていく必要があるからです。
近年、手続面だけでなく、管理コスト面での優位性が認められ、マドプロ出願が多くなっているため、その精査には相当の工数と労力を要することが予想されます。
ご担当者の皆さんは、気を引き締めて対応していただきたいところです。
3.更新手続
さらに、更新手続においても懸念点があります。移行期間の末日である2020/12/31までにEUTMにおいて更新登録が完了しているものは、EUTMで更新されているということから、イギリスでの更新手続は必要ないと認識されているおそれがあります。
しかし、2021年1月1日~6月30日に更新期限を迎えるEUTM商標は、イギリスでも更新しなければならない点に注意してください。仮に該当する商標の更新手続をし忘れていたとしても、UKIPOから通知が権利者に届きますので、その通知日から6か月以内に対応すれば、イギリスでの権利は維持できることになります。
なお、この通知を受け取るためにも、イギリス代理人を選任しておくと安心です。
3.その他
また、EUTM商標にライセンス登録されている場合は、イギリス商標には引き継がれませんので、ライセンス登録が必要な場合には、別途UKIPOへのライセンス登録手続きが必要になります。
特にライセンスを受けている場合には、登録されていることによるメリットは大きいと思いますので、注意が必要です。
Brexitによって引き起こされる状態を冷静に分析しますと、意外に対処すべきことがあると思います。早めに専門家に相談して対処することをお勧めいたします。
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