タンザニア最高控訴裁判所の重要な判決とは?
2025年9月26日、タンザニア最高控訴裁判所(Tanzania Court of Appeal)は、アフリカ広域知的所有権機関(ARIPO)を通じてタンザニアを指定した商標について、「タンザニア国内では執行できない(unenforceable)」との重要な判断を示しました。この判決は、ARIPOルートでの商標登録が、タンザニア本土において侵害訴訟や差止請求といった法的な救済措置を講じるための根拠とならないことを明確にしました。
判決の主な論点
- 国内法の未整備:
タンザニアはARIPOの商標に関する議定書であるバンジュール議定書(Banjul Trade Marks Protocol)に加盟していますが、この議定書を国内法として有効にするための実施立法(Enabling Legislation)が未だなされていません。 - 法的効力の欠如:
実施立法がないため、ARIPOを介した商標登録はタンザニアの国内登録とはみなされず、国内での法的効力(enforceability)を欠くと判断されました。 - 侵害訴訟の不可:
その結果、ARIPO登録商標のみを根拠とした侵害対応や差止請求は、タンザニア本土では不可能となりました。
【重要】
この判決は商標に限定されており、特許や意匠を規定するハラレ議定書(Harare Protocol)経由の権利には影響がないとされています。
実務上の影響:企業が直面する課題と見直しポイント
この判決は、ARIPOを利用してアフリカ地域でブランド保護を行ってきた企業にとって、タンザニアでの知財戦略の根本的な見直しを迫るものです。
- マーケット保護戦略の見直し:
タンザニア本土で強力なブランド保護と模倣品対策を確実に行うためには、ARIPOルートだけでは不十分です。今後はタンザニア国内での商標登録(National Application)が必須要件となります。 - 知財ポートフォリオの再設計:
ARIPO登録でアフリカ地域を一元的に管理している企業は、タンザニアをARIPOの恩恵が及ばない「例外国」として別途扱い、国内登録の手続きを組み込む必要があります。 - ライセンス契約の確認と修正:
タンザニアでのライセンス契約において、「権利保証」や「侵害時の対応義務」に関する条項を見直し、タンザニアにおける権利の発生条件(ARIPO登録か、国内登録か)を明確化する必要があります。 - 模倣対策への影響と早期対応の推奨:
模倣品や並行輸入対策として侵害対応を行う際の決定的な要素が国内登録の有無になります。侵害が発生する前に、早期の国内商標取得が推奨されます。
結論:タンザニア市場攻略のための新たな知財戦略
今回の判決は、地域的な広域知財制度に依存した権利取得が、加盟国の国内法整備状況によっては有効に機能しないことを示す極めて重要な事例です。
タンザニア市場は東アフリカの主要な成長市場の一つであり、ブランド保護の重要性は高まっています。
今すぐ取るべき行動ステップ
- 現行ポートフォリオの確認: ARIPO経由でタンザニアを指定している商標リストを全て抽出
- リスク評価: これらの商標について、模倣リスクや事業上の重要性を評価
- 国内登録の検討・実行: リスクの高い商標、特に中核となるブランドについては、直ちにタンザニア国内での商標登録出願の手続きを開始
タンザニア市場を対象とする企業や知財担当者は、今回の判決を機に、ARIPO登録だけでは不十分であるという点を再認識し、国内商標登録の取得を前提とした、より確実な戦略への転換が求められます。
商標に関するご相談などございましたら、お気軽にお問い合わせください。
