第2回日中商標制度シンポジウム聴講レポート【前編】~審査の現場:中国国家知識産権局商標局審査二処「悪意商標出願阻止」の取り組み~

日本貿易振興機構北京代表処・中華商標協会主催で、10月22日に開催された、第2回日中商標制度シンポジウムを聴講した中国現地メンバー申(shen)より、最新のレポートです。

今回のシンポジウムのキーワードは、「悪意商標出願」であると感じられました。もちろん複数のテーマが議論されていましたが、シンポジウム全体を通して、中国日本だけではなく、TM5(商標五庁)の「悪意商標出願」への高い問題意識や、対策強化の必要性への言及が一貫していた印象です。

シンポジウムの中でも、中国国家知識産権局商標局審査二処 副処長 宋玲玲氏の発言は、特にインパクトの強いものでした。日本からも中国には沢山の商標が出願されています。出願実績や保有商標のある日本企業、また支援する我々のような事業者にとっても、とても有益な内容だったので、取り上げていきたいと思います。

【中国国家知識産権局商標局審査二処における判断基準】

中国国家知識産権局商標局審査二処は、主に「悪意商標出願」を審査する機関で、その副処長である 宋玲玲氏より、2019 年 11 月 1 日に施行された中国の改正商標法における商標出願審査制度について解説がありました。

「使用を目的としない悪意による商標登録出願を拒絶する」とする《中華人民共和国商標法》第4条の新設により、商標審査段階で「悪意商標出願」を強力に阻止する法律根拠が明確になった訳ですが、今回のシンポジウムにおける宋副処長の発言によると、この「使用を目的としない」の判断基準は、「著しく実際の商標使用ニーズを超えること」であり、「悪意」の定義は、「不正当な利益を獲得する目的」としています。

【悪意商標出願を阻止するための「全面審査プロセス」】

悪意ある出願を見落とすことなく阻止する意図して導入された「全面審査プロセス」は、審査対象の商標だけではなく、出願人によって出願されてる全ての商標を網羅して、総合的に審査が行われる「案件一括処理」のが特徴です。案件一括処理のもと、まず以下の「初歩的審査」行われます。

  • 使用禁止標章の審査
  • 識別性審査
  • 先行商標権利の衝突
  • 代理機構
  • 悪意審査

初歩的審査において、まず注目したいのは悪意審査です。ここでは、
①審査員の判断、②第三者の訴え、③出願人公開資料の査定、④「局内審査定例会議」→決定
となり、具体的には、以下の要素を以て「悪意商標出願」に該当しないかをまず疑い、判断する
としています。

【審査時に「悪意」が疑われる具体的ポイント】

出願人及び関与する自然人、法人、組織の出願商標の数、指定商品・役務、商標取引状
<累積出願数、、審査待ちの出願数、関与する主体の出願数>
 ・出願されている商標の数が異常に多いと…→疑われる。
<商品又はサービスの種類>
 ・指定使用類別が多くなると…→疑われる。
<商標取引状況(実績&予定中)>
 ・商標の取引が頻発していると…→疑われる。

出願人の業界、業態、経営状況
<出願人の経営範囲、業界>
 ・自業界と関係ない領域で商標出願すると…→疑われる。
 ・商標の取引がメイン事業になってる会社…→疑われる。
<出願人の資本金状況>
 ・経営状況が不況であるにもかかわらず、大量に商標出願すると…→疑われる。
<出願人の設立時期、登記状況>
 ・設立後事業継続年数が短いにもかかわらず、大量に商標出願すると…→疑われる。

出願人が悪意商標出願行為、又は他人の商標・専利権を侵害した履歴の有無
<2年以内に商標悪意出願記録の有無>
 ・行政又は司法文書に、悪意商標出願行為や他人の商標・専利権侵害と裁定された履歴がある 
  と…→疑われる。
※商標審査において、ブラックリストの存在について、宋副処長によって言及がありました。
 「悪意商標出願」と1度でも裁定されてしまうと、ブラックリストに入り、以降の出願に
 おいて、厳しく査定されるそうです。

他の知名度がある登録商標や、商業標識や人名との類似・同一性
 ・他の知名度がある登録商標と類似、又は同一の商標出願をすると…→疑われる。
 ・知名度のある人物の氏名と類似、又は同一の商標出願をすると…→疑われる。 
 ・知名度のある企業の商号・名称や略称、商業標識と類似、又は同一の商標出願をすると
   …→疑われる。

こう列挙してみると、悪意ある出願をしっかり阻止できるよう、実に妥当なチェックポイントが効率的に網羅されていることが分かります。

中国では、改定新商標法や、【全面審査プロセス】の導入等の施策で、「悪意商標出願」を断固拒否する決意が示されています。それによって、より健全な市場環境が構築されると期待できます。
一方、商標審査において「硬い」ルールの導入により、本来防御を目的としていた出願も拒否されるのではないかと心配する方がいます。そもそも「防御出願」という概念は商標法に定義されておらず、「商標の買いだめ登録」と区別して審査してもらうのは、出願者の努力次第と言えます。


「これでは保護目的の出願も″疑わしい出願”にカウントされてしまうのでは?」
「誤ってブラックリスト入りしてしまうと、別の出願の審査で余計に時間がかかるようになる?」

という心配も無いわけではありません。審査におけるチェックポイントを意識し、疑われないように調査や、出願範囲の検討等、しっかりと事前準備をすることが大切です。
後編では、「初歩的審査」後のプロセスと、「悪意商標出願」ではないこと明確にするポイントについて触れていきます。

【後編へ】
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