中国における海外製品の模倣品事例をご紹介! case2:スポーツシューズメーカー「阿迪王(Adivon)」

こんにちは!申思です。

前回は、Case1として自動車メーカー「衆泰汽車」の事例をご紹介しました。
今回は中国のスポーツシューズ業界の模倣品事例をご紹介したいと思います。

晋江市(しんこう-し)と莆田市(ほでん-し)とは、地図上での直線距離がおよそ100kmです。この2つ小さな町は中国スポーツシューズブランドの発足地だと言われてます。今回のストーリーはここから始まります。


case2:スポーツシューズメーカー「阿迪王(Adivon)」

晋江市と莆田市は華僑の故郷として80年代にてスポーツシューズのOEM事業が発足しました。

しかしながら、1997年のアジア金融危機によって、OEM工場のビジネスが急落してしまいました。そこから2つの町は違う道を歩き始めました。

  • 1999年、晋江市ではブランド意識が芽生え、各靴工場がブランド新設のブームに入り、1年間で数十個のスポーツシューズブランドが出てきました。その時、莆田市ではまだOEM事業を継続してました。
  • 2008年の北京オリンピック確定を受けて、中国のスポーツ産業が爆発的に成長しました。「安踏」、「361度」、「特步」、「匹克」等の晋江系ローカルブランドは、中国国内半分以上の市場シェアを占めました。
画像の出典:https://www.huxiu.com/

晋江市の靴会社が広告、自社ブランド宣伝に奔走している中、莆田市はOEM事業の他にナイキやアディダスの設計図を持ってきて「山寨」事業(※前回記事参照)を始めました。

その時期はまだ中国消費者は自国ブランドに対して、「品質がダメ、設計がダサい」という先入観を持ってました。消費者の注目を集めるために、より宣伝にコストをかけないといけませんでした。晋江系の靴会社では価格戦争と広告戦争に陥ってしまい、事業継続に苦しんでました。

一方、莆田系の「山寨」工場では製造水準がかなり上がり、品質的に正規品に負けないくらい模倣品の大量生産が可能になりました。しかし模倣品として堂々と販売することができず、販売チャンネルは致命的な問題となりました。

莆田系の模倣品と正規品
画像の出典:こちら
  • 2006年、「阿迪王(Adivon)」という「山寨ブランド」が誕生しました。
アディダスと阿迪王の商標
画像の出典:こちら
  • 2008年、世界金融危機により、中国靴業界全体の投資が減速。中国国内では「悪搞文化(KUSO文化)」が盛んに流行してました。(「悪搞文化(KUSO文化)」のWikipediaはこちら)。
    ネット住民達が集中的に「阿迪王(Adivon)」を皮肉ることによって、「阿迪王(Adivon)」はネット上で大きな話題になり非常に注目を集めました。同年、商標権侵害ということでアディダス社が「阿迪王(Adivon)」に対し訴訟を起こしました。
  • 2011年、プリメーラ・ディビシオンにて「阿迪王(Adivon)」がメーカー・スポンサーとしてサッカーの試合に広告を出しました。
画像出典:こちら
  • 2012年、NBAにて「阿迪王(Adivon)」がメーカー・スポンサーとしてバスケットボールコートに広告を出しました。
画像の出典:こちら
  • 2012年、ロンドンオリンピックにて、コートジボワール、シリアおよびレソトの国代表チームのパートーナーとして、用具提供しました。同年、中国全国では2000店舗で、年間営業利益1億元(約15億円)を達成しました。
ロンドンオリンピックの宣伝
画像の出典:こちら
  • 2013年、アディダス商標権侵害件にて、「阿迪王(Adivon)」が敗訴しました。賠償金の支給を避けるために、商標とロゴの所有権をアディダス社に無償譲渡して和解しました。これより「阿迪王(Adivon)」の伝説が終わりました。
  • 現在、「阿迪王(Adivon)」の店舗は全て消えました。会社のロゴを変更してECサイト上では販売されています。
「阿迪王(Adivon)」変更後のロゴ
画像の出典:こちら

まとめ

「阿迪王(Adivon)」が全国2000店舗、年間営業利益1億元(約15億円)規模にまで成長する企業になると思った人は設立当初いなかったでしょう。中国の中でも、「山寨ブランド」が世界舞台に躍り出るケースは極めて稀です。

「阿迪王(Adivon)」の成功要因は以下のようにあるではないかと考えてます。

1. 時代の恩恵である「悪搞文化(KUSO文化)」。この要因は最も重要だと思ってます。この時代こそ、「山寨」に対して面白く、皮肉るのが楽しいという感覚があります。「阿迪王(Adivon)」社はその波に乗って知名度をあげました。

2. 出店ターゲットが正解だったこと。「阿迪王(Adivon)」社は大都市に殆ど出店していません。地方の小さな町が彼らのターゲットでした。地方の住民達は情報を得るのが難しく、虚偽の宣伝に誤魔化されやすいです。ネット上で有名だから買おうという人達が少なくありませんでした。

3. 低価格。低価格の魅力で消費者の購入意欲をキャッチしやすいです。安くて面白いから購入して、ネット上の話題に参加した人も結構いました。

今回は以上となります。次回は【case3:深セン賽格グループ】をお送りする予定です。お楽しみに!

参考記事:

百度百科:阿迪王、https://baike.baidu.com/item/%E9%98%BF%E8%BF%AA%E7%8E%8B
中国山寨帝国消亡史、https://www.huxiu.com/article/368169.html
回顧中國山寨品牌「阿迪王」傳奇,年賺一億人民幣、曾贊助奧運會,亮相NBA!、https://www.techbang.com/posts/50103-cottage-in-china-brand-adidas-king-legendary-earning-100-million-yuan-has-sponsored-the-olympic-games-appeared-on-nba

弊社では、模倣品対策の判断材料となるECサイトの調査および分析や、商標権を侵害する可能性のある商品を発見した場合、現地パートナーを通じて商品の代理購入が可能です。代理購入した商品が侵害品であった場合は、出品ページの削除や侵害訴訟等のサポートも一気通貫で対応可能です。

模倣品についてお困りのことがございましたら、お気軽にお問い合わせください。

〈ライタープロフィール〉
申 思(しん し)
GMOブライツコンサルティング株式会社
情報部

2014年に入社。社内のシステム開発や受託開発のディレクターに就き、ベトナムのホーチミンにある開発支社の役員を二年担当して、現在中国の瀋陽に滞在しております。中国の知的財産権に関する情報を収集しながら勉強中です。