中国で悪意のある冒認出願が多い理由とその対策

近年、中国では知的財産権保護を強化する為に、法律の改正や行政処罰の引上げが相次ぎ、特に悪意のある出願に対する施策が厳しくなっています。

中国商標局のデータによると、2020年上半期で異議申立の審査件数が68,162件と昨年より71.85%増加し、異議申立の成立率については50.14%と昨年の47.65%より上回ってます。

そのうち、約70%の案件では冒認出願であることを明らかになりました。

さて、なぜ中国で悪意冒認出願が多いのでしょうか。

根本的な原因:「先願主義」

米国商標法の「先使用主義」と違って、中国の商標の出願・登録では、「先願主義」に基づき、商標制度を構築してます。出願時の出願人による商標の使用意思より、出願日の確認を優先するルールです。

この「先願主義」のルールを用い、冒認出願が商機だと見てる人たちがいます。

商標権を確保しないまま中国で事業展開すると、所有する商標が中国国内の企業や個人により、先に出願・登録されるリスクは絶えず高いです。

冒認出願者の意図は以下が挙げられます。

  1. 冒認商標を真の商標権者に販売して譲渡するため
  2. 冒認商標を自社製品に利用して、真の商標権者と関連があるように混同させるため
  3. 真の商標権者が国内に事業展開する際に、商標権侵害を理由にして損害賠償を求めるため
  4. 冒認商標を用い、原産地などの虚偽宣伝を行うため

近年、商標冒認出願が商業化になりつつあり、経済的利益を狙う組織や集団が増える傾向があります。

例をあげると、2020年新型コロナウイルスの拡大により、中国感染症領域のトップレベルの専門家が公衆の前に登場する機会が多くなりましたが、冒認出願者が専門家の人名を大量に商標出願するという事件がありました。中国商標局が「国家社会の公共利益を損じる」という理由で、1580件の冒認出願をすべて拒絶しました。

このような冒認出願に対して、どのような対策を取るべきでしょうか。

早期段階の対応

  • 製品を市場投入する前に、まず商標権を確認する
  • 防御的に商標登録を行う。特に、外国語商標を登録する同時に中国語でも商標登録することをお勧めします。なぜなら中国消費者は、言語の習慣で外国語商標でも読みやすい中国語の名前をつけることが多いためです。ちなみに中国語の商標登録する場合は、以下の観点が有用です。(*1)
    1. 外国語商標の中国語翻訳
    2. 外国語商標の中国語音訳
    3. 中国語での造語、類似度が高いもの
  • 商標出願のモニタリング、商標局の出願公告を監視する
  • 「馳名(著名)商標」である証拠を持続的に収集する。中国では馳名(著名)商標の保護レベルが高いですが、商標が中国国内で馳名(著名)になったことを証明しないといけません。

(*1)
一例を挙げると、「New Balance」の中国語商標「新佰伦」の商標侵害紛争は最近ようやく落ち着いてました。90年代にNew Balanceが中国市場へ進出しましたが、その時に「纽巴伦」という音訳の中国語名称を利用してました。しかしながら、中国国内の販売代理会社が勝手に偽物を生産して「纽巴伦」の商標を冒認登録したことによって、New Balance社が一度中国市場を撤退せざるを得なくなりました。2003年、New Balance社が再び中国市場に進出したところ、偽物の”N”字シューズ商品の氾濫だけではなく、「新平衡」(New Balanceの中国語翻訳)、「纽巴伦」(New Balanceの中国語音訳)、「新佰伦」「新百伦」「NB」(New Balanceと類似度高いもの)などの商標が乱立してるため、その後長期間商標権紛争に陥ることに至りました。

出典:中国商標局


冒認出願を感知した場合の対応

  • 「悪意による冒認出願」の証拠を持続的に収集する
  • 初歩査定公告中の場合、「商標異議申立」を行う
  • 既に登録された場合、「商標無効宣告申請」を行う
  • 「商標行政訴訟」を行う


まとめ

中国では、商標冒認出願を徹底的に阻止することはできません。商標権の早期確保は最も有効な対策です。定期的な商標監視を行い、なるべく早く冒認出願を発見して対策を講じることが重要です。

中国で、「兵马未动,粮草先行。(出兵する前に糧秣をしっかり準備しておく)」ということわざがあります。現代においては、事業戦略を遂行させるために商標権は最も大事な糧秣でしょう。

中国商標出願についてお困りの際は、お気軽にご相談ください。

中国商標出願に関するお問い合わせはこちら
中国商標の冒認出願の監視に関するお問い合わせはこちら
その他、商標全般についてご相談はこちら

参考記事:

関連記事⬇️

〈ライタープロフィール〉
申 思(しん し)
GMOブライツコンサルティング株式会社
情報部

2014年に入社。社内のシステム開発や受託開発のディレクターに就き、ベトナムのホーチミンにある開発支社の役員を二年担当して、現在中国の瀋陽に滞在しております。中国の知的財産権に関する情報を収集しながら勉強中です。