ドメインネーム仲裁(UDRP)の要件(条件)変化とは?【ブランドTLD・新GTLD】

増え続けるドメインネーム

皆さん世界のドメインネームはどのくらいの登録件数があると思いますか?

   

日本のjpドメイン登録件数が100万超ですから、新gTLDの登録件数の多さがわかると思います。

  

ドメインネーム仲裁も増加傾向

日本は成熟をしてきた部分もあり、警告状送付をしてから場合によって仲裁申し立てをしていくという進め方をすることも多いですが、世界の仲裁件数はドメインの増加と比例するように年々増えています。下記は、仲裁申し立て機関の一つである「WIPO(World Intellectual Property Organization)」の仲裁件数です。(2020年は途中経過)

出典:WIPO

  

ドメインネームの仲裁判断に変化あり?

ドメインネームの仲裁制度の判断は、簡単に言えば、1)申立人の権利が正当な権利(例:商標権を有する。)を有する。2)申立人が正当に権利を有する文字列がホスト名に含まれるか、もしくは類似している。3)被申立人(ドメイン所有者)に悪意の登録意思かつ使用がある。以上3つの要件をすべて満たすことが必要です。

この条件に少し変化が出てきています。

   

ホスト名だけが悪意の登録意思を判定する要素ではないこともある

通常ドメインネームが悪意をもって登録・利用がされていると判断する場合の要素は、ホスト名だけがその判断の範囲になります。

   

   

したがって、SLDやTLDといった部分が仲裁の結果を左右することは原則ありませんでした。しかしながら、2015年に新gTLDが登場してから少しその判断は変わりつつあります。新gTLDとは、.shopや.inc .game .carなど産業や事業カテゴリなどを表す一般名称が600~700件程度存在しますが、上記仲裁要件の3)を判断する際に新gTLDの特徴である一般名称が持つ意味が悪意の形成の一部になると考えるケースがでてきています。

参照事例:Virgin Enterprises Limited v. Cesar Alvarez(Case No. D2016-2140)/

Andrey Ternovskiy / dba CHATROULETTE v. Chat Roulette, Exclusive Names(Case No. D2018-1024)

   

悪意の登録意思かつ使用の要件が緩和される可能性がある

先日開催されたICANN68クアラルンプール会議にて、仲裁要件の3)にあたる要件の緩和が議論され始めました。WIPO以外の各国による独自の仲裁要件では、3)にあたる要件が、「もしくは」と緩和がされていることが多くあります。これは、申請者側への証明責任負担を考慮したものと考えます。ICANNにおいても、各国の状況を鑑み、今回緩和の議論が開始されました。つまり、将来的に申立人にとっては、仲裁判断を認めてもらいやすい状況となります。

  

ICANN68ではさらなる議論を開始

ICANN68クアラルンプール会議では、仲裁に関して他の議論が開始され、特に、1)被申立人が仲裁費用を持つ判断を可能とする、2)ブランド侵害常習者に対する一定の措置を検討する、という点は、ブランド権者の皆さんにとっては興味深い議論となるのではないでしょうか。

その他の論点としては、3)仲裁申し立て人がパネリストになることはできない。通常の裁判から当然忌避がされるべきことですが、そうした制度がありませんでした。4)不服申し立て制度についてもいままでなかったため、この制度も論点として入ってきました。

   

最後に

2004年ごろの当時を思い出すと、ドメイン仲裁自体がどのように扱ってよいのかが世界で混とんとしていて、制度すらままならない状態でありました。そうした中、ようやく成熟し、一つの分野が形成されてきたといってもいいのかもしれません。

インターネットの良さを残しつつ、いわゆる裁判制度の良さを組み合わせることで、デジタルブランド資産である”ドメインネーム”の権利保護メカニズムは発展していくのではないでしょうか。

引き続きドメインネームの仲裁制度の状況を研究してまいります。

   


〈ライタープロフィール〉
寺地 裕樹(てらち ゆうき)

GMOブライツコンサルティング株式会社
営業本部 IPソリューション部

情報セキュリティのリーディングカンパニーである株式会社ラックのシステムエンジニアとして3年間従事。その後、司法試験を経て、GMOブライツコンサルティングに参加。営業としてだけではなく、コンサルタントとしても企業のドメインネームマネジメントについて、日々お客様の悩みに向かい合っている。