ちざ散歩 walk.02 ~いつか模倣品対策がブランディングの手段になる日まで。キヤノンITソリューションズ C2V Connectedの挑戦~

  

みなさん、ちざたまごです。正月ムードも抜け、新しい年が始まりましたね!
本企画、「ちざ散歩」では、私が知財・ブランドの世界で興味のあるテーマにつき、色々な人にお会いして掘下げております。

   

第2回では、「模倣品対策って『いたちごっこ』『キリがない負のコスト』と捉えられがちなものの、もっとポジティブな活動として位置づけられないのか?」と考え、キヤノンITソリューションズ㈱(以下、キヤノンITS)のIさんにお会いしました。

   

キヤノンITSではC2V Connectedという、正規品判定のためのクラウドサービスを、以前よりサービス展開されています。
C2V Connectedは、企業が模倣品を監視するのではなく、消費者に正規品の判定のために使ってもらうサービスであること。
また、単に正規品かどうか判定してもらって終わりではなく、判定ページから商品紹介サイトへリンクさせ、消費者に新商品をプロモーションできる点も面白く、これって模倣品対策とブランディングの架け橋になるのでは?と気になっていました。

   

はてさて、模倣品対策が企業の「お荷物」から脱出するためのヒントを得られるのか?

  
早速インタビュー開始です。

   

   

C2V Connectedが生まれるまで


ちざたまご:Iさん、本日はよろしくお願いします。Iさんは正規品判定クラウドサービス「C2V Connected」の企画・立ち上げを社内でけん引されたと伺いました。
そこで、まずIさんのご経歴と、サービス開発についての経緯を教えていただけますでしょうか。

   

Iさん:私はキヤノン(株)に入社しまして、キヤノングループでの様々な事業の経験を経て、キヤノンITSに配属されました。中でも2012~18年はCANON INFORMATION SYSTEMS(SHANGHAI)INC. (キヤノンITS上海)に勤務していました。
2013年ごろは中国で販売しているカメラで、模倣パッケージやバッテリーを模倣品と入れ替えた偽装販売が横行していて、キヤノン中国から、模倣品と正規品をうまく判定できるシステムを依頼されました。
当時、キヤノン中国では正規品のパッケージにホログラムラベルを貼る対策をすでにしていたのですが、そのラベルの模倣も出てしまっていたんです。高度な技術のホログラムに替えるアイディアもありましたが、鑑定に専用のビューアーが必要です。それだとお客様は気軽に鑑定できないですよね。


ちざたまご:ラベルのコピー対策をしつつ、同時に「お客様自身が簡単に真贋判定できる」仕組みを作る必要があったと。もしかして、それがC2V Connectedの前身に?

  

Iさん:はい、その時に作ったのは「正規品判定システム」と呼んでいた 、あくまで内部向けのシステムだったのですが、「キヤノン中国でニーズがあるシステムなら、模倣品に困っている日本企業にも使ってもらえる可能性があるのではないか?」と考えました。そこで、このシステムのコア技術をベースに、色々な企業にスピーディに使っていただける、新たなクラウドサービス「C2V Connected」を2016年4月にキヤノンITSより提供開始したんです。

  

  

真贋判定システムとコピーされないための工夫


ちざたまご:この、C2V Connectedというのは、具体的にどのようなサービスなのでしょうか?

  

Iさん:まずは図を見て頂くと、分かりやすいかと思います。 

  

  

C2V Connectedは「ConnectedTag」と呼ばれる正規品判定用のタグをスマートフォンで読み込み、判定するクラウドサービスです。C2V Connectedの導入企業は、このConnectedTagを自社の商品1つ1つに貼って頂きます。

  

   

タグを付けた商品が、市場で販売され、流通していく際に、消費者が「この商品、正規品かな?」と悩んだとき、自分のスマートフォンでC2V Connectedのタグを読み込む。
このタグにはURL正規品かどうかを識別する情報が埋め込まれており、C2V Connectedのクラウドサービスがそのタグが正規品か否かを判定し、消費者のスマートフォンに判定結果を返すという仕組みです。

    

ちざたまご:なるほど・・・。でも、ちょっと待ってください。模倣品業者がタグを丸ごとコピーして模倣品に張り付けたら、それも正規品という判定結果になってしまうんじゃないですか。コピーしたタグの二次元バーコードの情報は同じなのですから。

   

Iさん:はい、そこにはC2V Connectedの強味があります。
C2V Connectedのクラウドサービスは、判定のリクエストを受けるたび、タグごとに判定した回数をカウントしています。
そして、導入企業ごとに設定した判定回数上限を超過した場合、アラートが表示できるのです。
つまり、その上限の回数を1タグ1回と設定すれば、模倣品業者がそのタグをたくさんコピーして模倣品に張り付けても・・・

    

ちざたまご:そうか、2回目以降はシステムのほうで「こんなに同じタグのバーコードから判定リクエストが来るのはおかしい!ご注意ください」と判定を返すんですね。

  

Iさん:はい、この仕組みで、弊社は特許を取得しています。
C2V Connected のタグに埋め込まれた識別情報は、タグごとに1つ1つ違う、固有IDであることが前提になっています。
実際には、消費者側で複数回判定を試してみたり、読み取りミスをしたりする可能性もあるので、判定回数上限はC2V Connectedの導入企業の方針で設定頂いています。
下記が判定時に表示される画面ですね。

 

<非正規品の可能性がある場合> 

   

<正規の判定の場合>

  

ちざたまご:消費者が判定をする際は、普通にスマートフォンのカメラを起動し、タグの二次元バーコードを読み込めば良いのでしょうか?

  

Iさん:単純に二次元バーコードに埋め込まれたURLから判定サイトに飛ばし、真贋判定をすることも物理的には可能なのですが、その方法では、模倣品業者がそれらしい二次元バーコードを作って、勝手に作った偽のサイトに誘導し、「正規品です」という偽の判定書を表示することもできてしまいます。そこで弊社が推奨してる方法は、専用のアプリケーションを消費者のスマートフォンにインストールしてもらい、アプリケーション経由で真贋判定をして頂く方法です。これだと必ずC2V Connectedのクラウドサーバーに接続されますから。

  

ちざたまご:なるほど、でも消費者にとっては専用のアプリケーションをダウンロードするのは手間で、わざわざ判定してくれないのでは?

  

Iさん:まさしく、それは一つの課題でした。そこで、2019年1月にリリースした新仕様では、中国の人気メッセンジャーアプリのWeChatに連携して判定できるようにしました。WeChatは中国ではほとんどの人が使っているといっても過言ではない大人気アプリです。APIを導入企業に提供し、WeChatからAPIと連携した画面を用意することで、WeChatアプリ内の企業公式アカウントからも判定ができるようにしたんです。

  

ちざたまご:中国のスマホユーザーのWeChat普及率は9割を超えると言われてますから、日本でいうLINEを超えてますよね。私も中国の方とはWeChatでいつも連絡を取ってます。

  

Iさん:WeChatは中国の消費者にとって、単に友達と連絡を取り合うだけの手段ではなく、買い物の決済手段だったり、好きな商品をチェックするニュースソースだったりしますから、もはやインフラですよ。
中国に進出されている日本企業の多くは、WeChat内で公式アカウントを開設されていますから、企業のブランドコミュニケーションの一環として、消費者の方々に無理なく使っていただけると思います。実例としては、成和インターナショナル㈱様の化粧品ブランド「太陽のアロエ社」のWeChat公式アカウントで判定システムが導入されています。

  

出典:太陽のアロエ社 ホームページ http://www.taiyou-no-aloe.com/v.html

    

ちざたまご:普段使っているWeChatアプリから読み込むだけで良いなら、消費者に真贋判定をしてもらうためのハードルは大幅に下がりますよね。ユーザー目線で使いやすいアップデートだと思います。

  

模倣品がある、は恥ずかしいこと?


 

ちざたまご: C2V Connectedの仕組みはわかりましたが、どうしてこれが単なる模倣品対策を超えた、ブランディングのためのサービスになるのでしょうか?確かに、消費者が自分で模倣品かどうかを判定してくれる、というのは画期的とは思いますが・・・

 

Iさん:これまでの模倣品対策は、ブランドオーナーである企業が模倣品やその製造元を突き止め、模倣品の販売・製造中止を求めていくことが主流でした。模倣品の供給を絶つという点で価値がありますが、模倣品業者側も拠点を変えたり、より精巧な模倣品を作ったりと、なかなか根絶には至らない。場所によっては摘発する際に危険も生じます。
一方、C2V Connectedは、本物の識別方法を消費者に提供することで、安心して商品を買ってもらう支援をする。消費者に積極的に正しい商品を選んでもらおうという、ある意味で「攻め」のブランド支援ツールといえます。

  

ちざたまご:模倣品があることを対外的に認める。これは意外に企業にとっては勇気がいることですよね。ファンが離れてしまうんじゃないかとか、ブランド価値が傷つけられるんじゃないかとか・・・。著名なアパレルブランドでは、模倣品対策に取り組んでいることは公に出さず、水面下で進めるようにしているところもあると聞きます。

  

Iさん:企業として不安になる気持ちはわかります。ただ、中国の模倣品製造の技術は格段に向上していて、一般の消費者は外観からほとんど区別できない模倣品も急増している。そんな中、消費者は何を信じて商品を買えばよいのでしょうか。
模倣品が市場に出るということは、恥ずかしいことではなく、真似されるほど人気であるということ。悪いのはその人気にフリーライドしようとする模倣品業者です。そして、何より、消費者が間違えて模倣品を購入することは、消費者にとっても企業にとっても避けたい事態です。だからこそ、消費者が、商品が本物であると判断できる手段をきちんと提供することは重要ではないか、そのことによって逆に消費者から信頼が得られるのではと考えています。

   

ちざたまご:うーん、確かに中国の技術力が上がり、正規品と見分けがつかないレベルのスーパーコピーが市場に出回る時代になってしまったので、存在すると分かっているのに、模倣品が出回っていることを消費者に示さないのは不誠実に思われるかもしれない。

  

Iさん:C2V Connectedを導入されている企業の方々は、対策の方法を様々に検討された上、模倣品について「告知型」というアプローチを取られているケースが多いです。模倣品があるからご注意くださいと告知し、真贋判定の使いやすいツールを提供すれば、消費者の方は安全に本物を選ぶ手段を得られる。そういうスタイルはブランドの名誉を傷つけるものではなく、逆にファンに安心感を与えて信頼してもらえる行動ではないでしょうか。

   

ちざたまご:模倣品業者も売れる商品を真似たいと常に考えているので、模倣品の存在は人気のバロメーター的な部分もあります。強いブランドを持っているメーカーは、模倣品業者に狙われることを前提にし、どうブランドを守っていくか、消費者に安心してもらうかを考える必要がありますね。

  

Iさん:はい。もちろん知的財産権を行使する「摘発型」の模倣品対策を否定しているわけではなく、それはそれで必要な対策だと思います。合わせてC2V Connectedのような、商品のファンが、安心して本物を判定できる手法を提供していくことは、両立し、相乗効果も高いと考えています。

  

<太陽のアロエ社製品の導入例 >

  

模倣品対策はブランディングと融合できる?


ちざたまご:企業の模倣品対策で難しいこととして、予算を確保することがあります。模倣品が出た当初は、社内も盛り上がって、1000万円単位などまとまった予算も取りやすいですが、模倣品が根絶されることがなく、2年、3年と対策を続けることになると、金食い虫とか、いつまでお金がかかるんだ?とかいう目で見られてしまう。挙句の果ては、もう無駄だから止めようとか、放置しておけということに・・。

  

Iさん:まず、C2V Connectedはクラウド型サービスです。一部の初期費用等を除き、商品に貼る識別タグ1枚あたり数円~というコスト体系になっています。タグ1枚あたりの価格産量が多ければ当然下がりますから、高額のシステムにいきなり大金を投資しなければならない、といったことはありません。
次に、模倣品対策の予算をどう考えるかは、私も難しい問題だと思います。模倣品に関する相談件数は、中国市場におけるものが圧倒的に高く、日本とは全く違う市場です。
今、日本の企業は中国市場に対して、二極化しているとみています。中国マーケットで本気で勝負しようとする企業と、中国は模倣品やら規制やら色々と難しい問題があり、二の足を踏んでいる企業と。
もし「本気で中国で勝負しようとする」企業ならば、模倣品対策に取り組むことはマストだと思います。

   

ちざたまご:模倣品対策はマストですか。何故そこまで言い切れるのでしょうか?

  

Iさん:ブランドは、品質、イメージ、価格等で構成されると一般に言われていますが、模倣品が出て安心して買えないことは、消費者にとって、イメージの直接的な悪化に繋がります。また、正規品と外観で区別が難しく、消費者が気付かずに、低品質な模倣品を買った時はどうでしょう。当然、「このブランドは名前ばかりで、品質が低い、二度と買わない!」という誤解につながりかねません。模倣品だと認識していないわけですから。
そうなると、企業のブランド価値は傷つけられ、中国市場での激しい競争のなかで勝ち残ることはますます困難になっていくと思います 。

  

ちざたまご:日本ブランドは中国人観光客による「爆買い」のようなブームもあり、すでにある程度ブランド価値が認められているような気もしますが・・・

 

Iさん:残念ながら、2017年ごろから「爆買い」は減少傾向になっています。また、ここ2~3年、中国のECモールであるTmall・JD.comを見ていても、トップ20に中国企業の商品が多く並ぶようになってきています。「Made in Japan」というだけでモノが売れるということは、現実には合わなくなってきているのです。

 

ちざたまご:中国企業の努力もあり、価格は安く、品質も日本企業の製品とほぼ同等か迫るレベルという商品は多数マーケットに出てきています。そんな中、日本企業の製品を選んでもらうためには、どのような努力が必要でしょうか?

  

Iさん:はい、「Made in Japan」のブランドは、今も魅力的だと思いますが、それだけではなく、日本のそれぞれの企業が、消費者にその会社、商品、ブランドに魅力を感じてもらい、ブランドへのロイヤリティを高めていくこと、そのためのブランディング戦略を検討することも大事かと思います。例えば、パレートの法則では、顧客全体の20%にすぎない優良顧客が売上の80%を占めるとされています。最近では、その優良顧客、リピート顧客=ファンととらえ、ファンとよりよいコミュニケーションをとり、顧客のロイヤリティを高めていくことを主眼にマーケティングをされている企業も多いです。

 

ちざたまご:優良顧客は、そのブランドの価値を認めてくれているので、どうやったら模倣品を見分けられるのか?や、正規品と模倣品の違いはどこにあるのか?という点に関心が高く、C2V Connectedとは親和性が高そうですね。
また、せっかくの優良顧客になってもらっても、誤って模倣品を買わされてしまったら、「もう二度とこのブランドは買わない!」と腹を立ててしまい、ブランド離れを起こすことは十分起こりますから、C2V Connectedで識別手段をあらかじめ提供しておくことは有効に思います。

 

Iさん:もちろん、他の企業が真似できないようなユニークな商品を開発していくことも大切ですが、どんなに特徴的で差別化された商品を作ったとしても、今の時代はすぐに研究され、類似の後発商品にフォローされるのが現状です。
知的財産権で守ろうとして、国や状況によっては主張が通らず、うまくいかないケースも多いと聞いています。
そこで、製品の「機能価値」だけでなく、そのブランドが好まれる、魅力があるという「情緒価値」の向上を考えていくことも、一つの有効なブランド戦略ではないでしょうか。「情緒価値」を育てるのは時間がかかりますが、その分、簡単にはコピーできないですから、強いですよ。
C2V Connectedは単なる真贋判定サービスだけではなく、企業のお客様とのコミュニケーション力と信頼性向上を支援するサービスであり、ブランドのロイヤリティ向上に貢献できると考えています。

    

単なる「真贋判定システム」を超えて

ちざたまご:色々とお話をうかがってきましたが、今後、C2V Connectedはどのような方向に進化をしていくのでしょうか。

  

Iさん:最近ニーズが高いのは、商品の流通トレーサビリティです。販売店が指定地域以外に商品を販売していたり、ネット等で不正に転売されているケースがあるとのことで、不正の箇所を特定し、抑制に役立てたいという要望が増えてきています。判定を行うと、その結果に加えて判定地の位置情報も企業側で確認できます。
もう1つはタップ率(消費者が真贋判定を行った割合)の向上です。タップすると新しい情報が得られたり、ポイントがもらえるというようなインセンティブを付加することで、タップ率向上を図り、商品の再購入を促す流れを強化できれば良いと考えています。

ちざたまご:消費者が真贋判定をした場所も情報としてわかる、というのは面白いですね。

  

Iさん:ただ、この点は個人情報との兼ね合いにも特に配慮が必要です。最近は、ヨーロッパのGDPR(EU一般データ保護規則)をはじめとして、個人情報保護の動きが強化されてきている傾向にあります。C2V Connectedでは、位置情報を保存する場合、個人を特定できないように単位に丸める等の対応をとっています。
そのほか、システムインテグレーターである当社は、お客様のシステム全体のコンサルティングから開発、運用までトータルにご提案することが可能です。既存システムや周辺システムとC2V Connectedを連携させ、お客様のご要望にあわせた形でご提案することができます。
例えば、メーカーでは商品を製造し出荷するまでをシステム化していることが多いですが、その後の、お客様に届くまでの状況をC2V Connectedで確認する。それにより、製造から流通までを一元管理することも考えられます。

  

ちざたまご:C2V Connectedは単なる真贋判定のシステムではなく、ブランディングやマーケティングのチャンスを広げていくサービスでもあるということですね。模倣品対策をブランディングの手段として活用していく1つの方法として、ヒントが見つかったように思います。本日はありがとうございました!

  


   

☆不正流通抑制・ブランド保護に活用いただける
C2V Connectedのトレーサビリティソリューションのスペシャルサイトはこちら:https://www.canon-its.co.jp/files/user/products/c2v_connected/lp/index.html

 


書いた人:ちざたまご

企業内弁理士/ムゲンチザイプランナー。「知財はもっと面白い」をキーワードに、企画×知財の世界を掘り下げ中。第3回ムゲンチザイイベント「しくじり×知財」2020年春 開催予定!

Twitter:https://twitter.com/chizatamago

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