ブランドに関わる人に会おう -ヤクルト本社 品川さん-

  

いつもお届けしているBRANDTODAYとは異なり、企業のブランド価値を上げるために働く”ヒト”にフォーカスをし、インタビューをしていく企画です。 はじめての今回は、株式会社ヤクルト本社開発部知的財産課で働く品川さんにインタビューをしてきました。
毎日のヤクルトを欠かさず、思いをもって仕事をこなす品川さんとはどんな人なのでしょう?

  

世界で販売されるヤクルト。国によってボトルの大きさが違います。知ってました?

  

  

知的財産との出会い


  

寺地:本日はよろしくお願いします!早速いろいろと聞かせてください。現在、開発部の知的財産課に所属されているかと思いますが、今の主な担当業務は何でしょうか?

品川:特許業務を対応しています。

寺地:ご入社の頃からずっと特許出願等のサポートをされているのですか?

品川:入社から5年目までは医薬品(抗がん剤)の臨床開発を担当していました。

寺地:では、大学は理系卒ですね?

品川:はい。大学院を卒業して、そのまま理系の仕事に就きたいと思い就活をしていて、縁があってヤクルト本社に入社しました。   

寺地:現在は知的財産課にいらっしゃいますが、知財関係の業務をしたいという思い、きっかけはいつからだったのでしょうか?  

品川:元々、大学院の授業で知財の授業を受けたことがありまして、興味をそこで持ちました。いつか知財の仕事をしたいなぁという気持ちは、入社前から既にありました。ただ、さすがに1年目で開発現場を知らない中で特許の仕事とか、知財の仕事は務まるのかな?と思って、当時大学院の研究でも医療品関係の研究をしていたので、その延長線上の医薬品開発の担当となりました。

寺地:5年目に異動ということですが、一定の経験をすれば異動ができるような制度が社内にはあったのでしょうか?

品川:当時から一定の年数が経過すると異動願いを出すことができる制度はありました。ただ、それに満たす前に、どうしても知財への興味が大きくなっていて、色んな方と相談をして、念願の知財関係部門に異動ができました。

 

 

念願の知財部門へ


 

寺地:知財部門に入ったときの印象はどうでしたか?

品川:これまでは医薬品の開発を担当していましたが、一つの薬剤を開発するためにとにかく突き詰めるという仕事です。一方で知財部門に入ってからは、様々な開発と関わり特許のシーズを見つけていきますので、”マルチタスクな業務”だなと思いました。入った瞬間の印象です。

寺地:頭の働かせ方がまったく変わった感じですね。 その後、段々と慣れてくるとは思いますが、楽しさってどのようなところですか?

品川:登録査定は一つの区切りです。権利が取れたということは、一つ会社の事業を守る力を上げることができたわけですが、事業貢献をしていると感じることができ、とても楽しいなと感じています。常にいくつもの案件を回すマルチタスクな業務ではありますが、会社の事業を今日も守れた!という喜びを感じながら業務に取り組んでいます。

寺地:登録の喜びが事業貢献できていることにあるというのは、なかなか聞けません。素晴らしい感覚ですね。

  

  

知財の役割は、開発の魅力を引き出すこと


  

寺地:研究開発をされている方々と何が特許になるかということをよく話すかと思いますが、その時はどのようなことに気をつけてお話しをされていますか?

品川:発明者の方は、特許で取得できる範囲を狭く考えていることが多くあります。でも、実際話を聞いて色んな先行文献、論文を読んでみると、もっと広い範囲で特許を取れるケースがあります。せっかく頑張ってきた発明ですから、発明の魅力を最大限に引き出せるように心がけています。

寺地:そこが知財関係者の存在意義なのですね。上手く魅力を引き出せたら、「よし!」となりますよね。

品川:発明者も正しく評価されますし、事業への貢献はもっと大きなものですよと、感じてもらいたいと思っています。

寺地:発明者の方とのコミュニケーション能力が試されますね。

品川:そうですね。発明者の方も何件も特許出願をされていたら感覚的に身につくものかとは思うのですが、初めて特許出願される発明者の方は権利範囲をどこまで広げることが適切かはわかりません。コミュニケーションには特に時間をかけています。

   

寺地:色々な開発に関わってきていますが、実際、品川さんが担当したもので製品となったものはありますか?

品川:特許はだいたい3年くらいで登録査定を受けるので、自分自身が出願した案件が登録査定を受けて、製品が世に出たという経験がまだないです。

寺地:これから楽しみがいっぱい待ち受けていますね?

品川:そうですね。途中から関わった案件でも登録査定が取れれば、「やった!」と思えるので、自分が出願から関わったものの喜びはあると思います。

  

  

現在の役割は?


  

寺地:今、何名くらいの組織ですか?

品川:10名程のメンバーで対応をしています。特許は4名です。

寺地:もっと多いのかと思っていました。少数精鋭ということですね。

品川:一人の案件数は多いかと思います。まだ知財に関わって日も浅いですが、当初(1年半前)より確実に処理スピードが上がってきたという印象があります。少数精鋭な分、弊社の食品事業・医薬品事業・化粧品事業等幅広い分野かつ多くの案件に関わることもできますし、特許の出願件数を確認して自分自身の処理スピードも客観的に測れます。自分の成長が分かりやすいのが面白いところです。

寺地:今、主任という役割を担っていますが、メンバーの時と主任のときでは面持ちは変わるものですか?

品川:役職がついていない時は、上長が社内外の打ち合わせに同席をしていますので、知らぬ間に頼っていたのだなと感じます。今、主任という立場となって、一人で案件などをやり遂げないといけないというプレッシャーはあります。また、コミュニケーション能力は非常に重要だと思っています。発明者の魅力を引き出すためにも必要ですが、後輩の育成などのためにも重要です。どうモチベーションを引き出すか、これからの新たなチャレンジです。

  

寺地:グローバル化はどんどん進んでいます。国内だけではなく、海外も当たり前に気にしなければなりません。こうした中で、困ることもあれば楽しいこともあるかと思いますが、言語はいかがですか?

品川:言語については自身が勉強するしかないんですけど、そこは日々勉強です。英語だけではなくて、韓国語とか中国語とか、世界は広いので、色んな言語と遭遇し、追いつかない所もあります。ただ、言語も大切ですが、各国の特許出願や審査の基準も異なりますので、この点もしっかりと頭にいれないと、発明者の開発を適正に出願することはできません。そういう意味では、制度理解のほうが気になります。後々、ああしておけばよかったとこうしておけばよかったと思うことをなくしたいので。

  

  

知財の注目度は確かに上がっている


  

寺地:下町ロケットやまんぷくなど、知財にフォーカスをした番組もちらほら出てきました。ここ数年で業界の雰囲気は変わりましたか?

品川:知財を活かした経営支援が求められていることは、色んな会社のご担当者様と話していると感じます。

寺地:実際関わっている事業部の方(営業やマーケ系の方々)と打ち合わせをしたりするとき、知財というキーワードはたまに出たりしたりしますか?

品川:しますね。結構”IPランドスケープ”※という言葉がでることもありますし、知財がどんどん事業の中枢に入り込んでいるように感じています。

  

寺地:最近もニュースで目にしたりしますが、マーケ先行で事業がスタートして、権利の問題が発生してしまうことがあります。早めに相談してくれれば、と思うことはありますか?

品川:私が配属前に各商品にどういう特許を出していて、どこが抜け落ちているかという所を示してほしいみたいなことはありました。先ほど話した通り、マーケ側も知財を意識しだしているのだと思います。

寺地:なるほど。

品川:私が入社した頃より知財の存在感はどんどん高まってきているのではないかと思います。

寺地:知財が果たせることはやはり大きいですか?

品川:大きいと思います。両親が学者でバイオ関連の特許出願を幾度か経験していたこともあり、知財が会社の事業を支え、守ってくれるものである、ということをよく聞いていました。

  

寺地:現在知財に移られて1年半ではありますが、どんな行動がより事業に好影響を与えそうでしょうか。

品川:色んな事業分野の人に対して、特許が登録となった時に会社の事業がこの特許のおかげでこんなに強化できたということを全社レベルで認識してもらえる活動がしたいです。

寺地:結構、みんなで盛り上がりたい気持ちがある感じですね?

品川:はい。

寺地:知財の方々と話していると、個別に話すとすごく面白いのですが、他人を巻き込むのは臆病と思う方は確かに多いと思います。発信ベタな印象です。

品川:まさにそうです。

寺地:でも実は全社一丸となって良い開発ができれば、「わー、キャー」ってみんなで盛り上がりたいし、売上が上がれば同じように「わー、キャー」盛り上がりたいところがあるんですね。

品川:はい、そうですね。

  

寺地:AIやリーガルテックなど、法律業界にもIT化の流れがあります。こうした現在の進化はどう感じますか?仕事を奪われるといった過激な書き方もあります。

品川:特許調査などでAIが出てきていて、文言だけを見て一致しているかしていないかは判断できるのですが、実際の深い内容まで読み取れてはいないという印象です。明細書以外にも技術の背景なども理解した上で判断をする必要があり、まだまだこれからの発展なのかなと思います。正しい権利範囲は、先ほどお話しをした通り、コミュニケーションが重要ですし、様々な情報を基に、新しい視点で物事をみることも重要です。そんなときはやっぱり人間の出番かなと思います。

 

 

今後考えていることは?


 

寺地:将来のためにこんなことをもっとしたいというようなものはありますか?

品川:個人的に模倣品対策とか。一つの商品に対して特許で守ることができますけど、商標でも意匠でも色んな知財の分野で商品を守ることができるので、色んな知財の業務をして商品の保護をできるような人材になりたいと思っています。

寺地:権利は取るだけでなく、行使する側面もありますね。

品川:あともう一つは、視野を広げたい。今の仕事を1年半経験して、正解って一つじゃないな、と痛感をします。色んな考え方を持ち合わせるためにも、多くの企業担当者さんと情報交換をしていきたいと思っています。今回こうしてインタビューをお引き受けさせていただいたのも、BRANDTODAYを見ていらっしゃる企業の方々と情報交換ができるきっかけが作れると思ったからです。最終的には、知財業界がより盛り上がっていくことになれば楽しいですね。

寺地:ずっとお話しを聞いていて、品川さんの可憐な見た目からは想像できないほどの事業貢献への使命感を感じました。発明される方も品川さんによって魅力(適正な権利範囲)を引き出してもらえますし、企業としてもビジネス的な視点を持った知財担当がいることは非常に心強いだろうなと感じました。本日はお忙しい中、インタビューの機会をありがとうございました。

 

※ IPランドスケープとは、従来のように先行する技術の調査・権利化のためだけに知財データを活用するだけでなく、経営戦略や事業戦略を立案するための情報としても活用していく取り組みです。

  

  

〈ライタープロフィール〉
寺地 裕樹(てらち ゆうき)

GMOブライツコンサルティング株式会社
営業本部 IPソリューション部
consul@brights.jp

2008年に入社後営業部の主力メンバーとして、営業数字を牽引。2012年には、当時最年少で営業部部長に就く。現在は、商標・ドメインネームに関するコンサルティングを主に行うIPS部、営業部、営業管理部を率いる営業本部副本部長として従事。趣味は、家族と週末農家、インラインスケートなど。