2016年マドプロ出願ランキング2位はEUIPO 〈Pick up:Nestlé〉

世界最大の商標データベース「GlobalBrandDatabase(以下略GBD)」で2016年度のマドプロ出願数から、マドプロの指定国として注目されている国をランキング形式でご紹介いたします。マドプロ出願の際、どの国への出願数が多いのでしょうか。

 

[su_heading size=”15″]2016年度の総出願件数:50,549件[/su_heading]

5位:日本 (出願件数:14,240件)

4位:ロシア (出願件数:14,642件)

3位:アメリカ合衆国(出願件数:20,600件)

2位:EUIPO(出願件数:20,888件)

 

2位にランクインしたのはEUIPOでした。マドプロ出願の指定国を「EUIPO」としている権利者TOP11は下記の通りです。

イギリス、ドイツ、オランダ、スイス、等ヨーロッパ各国を拠点とする大手企業と、アメリカ、日本の大手企業からの出願数が多いことがわかります。

〈ピックアップ〉11位:SOCIETE DES PRODUITS NESTLE S.A. 

 

GBDで権利者”SOCIETE DES PRODUITS NESTLE S.A.”を検索した結果、20,863件の出願商標が確認できました。出願商標数が多いですが、一方で権利放棄(inactive)されている商標も14,371件と非常に多いことが特徴的ではないでしょうか。

登録商標を放棄する理由として考えられることとしては以下のようなものが挙げられます。

  • 幅広い権利範囲(区分)で権利化をしたが権利取得後使用をしなかった
  • パッケージ変更等により古くなり使用しなくなった

では、ネスレ社の放棄商標はどのようものがあるのでしょうか。

”nestle”を含む商標の放棄

”nestle”を含む商標1,904件の内、放棄(inactive)されている商標は739件であり、”nestle”を含む商標だけでも多くの商標を放棄していることが伺えます。これまでネスレ社は幾度かに渡りロゴの変更をしておりますが、古くなり使用しなくなったたロゴが複数放棄されていることが確認できました。

画像出典:Global Brand Database(http://www.wipo.int/reference/en/branddb/)

また、放棄されている区分は30類(加工した植物性の食品等が対象の区分)、29類(動物性の食品等が対象の区分)、32類(アルコールを含まない飲料及びビール等が対象の区分)の順に多く、これはネスレ社の主要事業である区分となります。

主要事業である登録商標の放棄を多く行っていることから、商品と展開国での商標使用状況を把握し、使用しなくなった商標は適宜放棄されていることが読み解けるのではないでしょうか。

画像出典:Global Brand Database(http://www.wipo.int/reference/en/branddb/)

また、一方で一番古いとされるロゴ(26701)は放棄されることなく、現在も登録商標として存在しています。WEB上で証明しにくいほど古い商標に関しては、登録商標を保有していることで、古くからそのロゴを使用していた存在証明がしやすいからであることから、保有し続けていることが考えられます。

パッケージ商標の放棄

放棄している商標の中には、商品を包装するパッケージ商標の登録も複数確認が取れます。ロングセラー商品は、商品名ロゴやパッケージの変更をすることは珍しくありません。ネスレ社の看板商品である「KitKat」の古くなったパッケージ商標の放棄だけでなく、ヒットに結びつかず廃盤となった商品等、不要商標の放棄は適宜放棄を行っていることが伺えます。

画像出典:Global Brand Database(http://www.wipo.int/reference/en/branddb/)

前述以外の理由でも放棄に至っていることと思いますが、権利登録後も登録商標の使用状況を国と区分の観点から把握をし、適宜棚卸作業を行うことで、必要な権利に対してコストを費やす取り組みを行っている企業であることが伺るのではないでしょうか。

世界中から人気を集める日本のKitKat

1935年にイギリスで誕生した「KitKat」。パッケージや食感の改良を続け、2000年代から、ホワイトチョコ、いちご、夕張メロン、信州リンゴ等、季節や地域を限定した300種類もの商品展開をしており、海外からも日本での商品展開が注目されています。日本ならではの味を手ごろに味わえることから、様々な限定味をお土産として購入していく外国人は多く、「KitKat」をお土産として購入して帰ることは既に定番化しているようです。

商標出願状況から今後の展開国を予測

2003年以来「KitKat」の新しい魅力を発掘してきたのが「KITKAT Chocolatory」。ネスレは2017年9月5日に「KITKAT Chocolatory」を扱う専門店をアジアで展開すると発表しました。まず10月に韓国で1号店を出し、数年内に中国や台湾、東南アジアにも出店するといいます。

画像出典:https://nestle.jp/brand/kit/inbound/en/chocolatory/store.html

ネスレが権利者で”Chocolatory”を含む商標は9件確認ができました。

2014年6月に日本で「ショコラトリー\CHOCOLATORY」(登録5675686)が登録された後(J-PlatPat検索結果より)、2016年にネスレ本国であるCH(スイス)での登録がされました。次いで、MY(マレーシア)、AU(オーストラリア)、PH(フィリピン)の登録と(AU(オーストラリア), EM(ヨーロッパ), GB(イギリス), IN(インド), KR(韓国), NZ(ニュージーランド), PH(フィリピン), SG(シンガポール)を対象としたマドプロ出願が行われました。

画像出典:Global Brand Database(http://www.wipo.int/reference/en/branddb/)

アジアでの展開国1号として韓国が決定したにも関わらず、出願が遅れたと考えられる理由は韓国データベースにありました。韓国データベースを確認したところ、”Chocolatory”出願商標は2件存在し、”Chocolatory”の商標は”COLOMBIN CONFECTIONERY CO., LTD”という韓国でチョコレートを扱う企業により2014年に登録がされておりました。この競合社による先行商標の存在を知っていたからこそ、出願の対応が遅れたのかもしれません。ネスレ社は韓国に”Chocolatory”の文字商標での出願は行わず、著名な「KitKat」を含むパッケージ商標として出願をしていることも、先行商標の存在を把握しているからこそ、登録が認められる手段を考えた上での動きではないかと推測できます。現時点でネスレ社の”Chocolatory”商標は登録に至っておりませんので、無事に登録されるか今後の動向が気になります。

”Chocolatory”がネスレ社の主要区分である30類で取得がされているため、今後韓国での事業展開に支障がでないかが心配な点ではないでしょうか。

画像出典:韓国データベース(http://engdtj.kipris.or.kr/engdtj/searchLogina.do?method=loginTM)

商標の出願順からは、MY(マレーシア)、AU(オーストラリア)、PH(フィリピン)等への進出や、マドプロで韓国出願と同時に指定されているIN(インド)やSG(シンガポール)への店舗展開が検討されているのかもしれません。

新たなタグラインによるブランディング

もともとはイギリスの労働者階級の人たちのためにつくられた食べものだった「KitKat」。「Have a break(休憩しよう)」という言葉にその名残りが感じられます。高級感のある「KITKAT Chocolatory」では装い新たに「CREATE YOUR BREAK」というタグラインが付けられました。

両者ともかけ離れた意味合いではないものの、“ブレイク(break)”を提供するコミュニケーション型ショップというコンセプト作りをしている「KITKAT Chocolatory」が、この新しい「KITKAT Chocolatory」で多くの人に喜びと感動とご褒美のような休憩を我々消費者へ提供しようとしているのではないかと感じます。

新たなタグラインによる、新たな「KitKat」のブランディングにも目が離せません。

 

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