グローバル企業の商標管理体制とは? -McDonald’s マクドナルド-

日本マクドナルドホールディングスの業績が急回復しているようです。新メニューラッシュや適正価格のサーチによる価格の見直しなどが功を奏したのか、鶏肉偽装問題で減った客足も回復基調を示し、それが確実に業績に結びついてるようです。

今や、世界120カ国36,000店舗をかまえる巨大ファーストフードチェーン「マクドナルド」。グローバル企業の代表格である「マクドナルド」の商標取得や商標管理体制等についてご紹介をいたします。

世界的に見た日本のマクドナルドとは

商標権数から見えること

世界最大の商標データベースであるGlobalBrandDatabaseで権利者”McDonald’s”の検索を行った結果が左図です。US(アメリカ)での出願件数が655件と圧倒的に数が多いことがわかります。一方、日本の商標データベースであるJ-PlatPatで権利者”マクドナルド エンド ミユア リミテツド”の検索を行った結果、469件の商標が確認できました。これはカナダの371件を超えアメリカに次ぐ商標取得件数です。世界的に見ても日本の商標取得件数が多い数字であることがわかりました。

右のグラフは世界のマクドナルド店舗数の割合を示したものです。アメリカが全体の4割を占め圧倒的1位の数となっており、日本が2位に続く結果となっていることがわかります。カナダやドイツ・イギリス等よりも圧倒的に日本の店舗数が多く、日本の商標件数がアメリカに次いで2番目に多い結果であることも頷けます。1971年、日本マクドナルドが東京・銀座の三越1階に第1号店を開業してから46年程の長い歴史の中で、古くから日本人の生活に根付いてきたことが伺える結果なのではないでしょうか。

アメリカと日本の商標出願傾向の違いとは

アメリカと日本の商標出願を区別別に見たとき、大きな違いがあることがわかります。

画像出典:Global Brand Database(http://www.wipo.int/reference/en/branddb/)

加工した植物性の食品等が対象の30類が158件と圧倒的に多い日本に対して、アメリカは42類の出願が1番多く、30類の出願数は全体の3番目に多い71件に留まる結果となっています。

日本の30類の登録は、マックフルーリー(4682425号)、チキンタツタ(5479721号)、McPORK(5093975号)等、日本ではお馴染みの商品名の登録があり、アメリカの30類の登録も、MCRIB(1315979)やEGG MCMUFFIN(3301565)やMCMUFFIN(1369360)の登録がありました。

両国共に商品名の登録がされていますが、日本とアメリカの商標登録傾向の違いとして大きいものは「キャンペーン名」の登録方法だと考えられます。

画像出典:http://www.mcdonalds.co.jp/

おてごろマック(5866491号)、¥100\マック(4908313号)、夜マック(商願2017-39563)等、このようなマクドナルドキャンペーン名の商標名の登録が、日本の30類の登録には複数存在しますが、アメリカの30類の登録にはなく、このようなキャンペーン名の登録は42類の”restaurant services”を指定しての登録が確認できます。日本では30類で登録されているような商標が、アメリカでは42類で登録がされており、日本とアメリカでは、商標登録方法が異なることが読み解けます。では、国によって登録方法が異なる要因とは何でしょうか。下記3つの要因を挙げさせていただきます。

1.商標管理体系の置き方

商標出願傾向が異なることから、マクドナルドはアメリカ合衆国に本社を置く企業ですが、商標管理体系が各海外法人が担っていることが読み解けます。また、マクドナルドは飲食の材料をできるだけその国で調達し、メニューもその国の文化を考慮した戦略を取っています。肉類を避けるインド人のためには、ベジタブルバーガーも開発する等、ブランド管理体系においても各海外法人が担っており、各国独自の嗜好や文化に適切に応じられるよう、マクドナルドが体系を置いていることが考えられます。

2.国による商標制度の違い

日本では、登録によって商標権が発生すると考える「登録主義」を採用しています。実際に商標を使用していなくても、商標登録すれば権利を取得することが可能です。一方、アメリカでは商標を実際の商取引で最初に使用することによって商標権が発生する「使用主義」を採用しています。

”Burger”を含む権利者のアメリカ商標出願状況を確認したところ、456件の商標が確認できましたが、飲食物の提供等が対象となる43類が271件と圧倒的に多い数字であることがわかります。

この中にはBURGER KING(1076177)での登録もあり、43類で”restaurant services”を指定しての登録が確認できます。

日本では製品毎に30類で権利化を行うことが主流でありますが、アメリカで飲食展開をしている企業はサービス区分での出願をメインに権利化をすることで事業展開の権利化の保護を行うことが主流なのかもしれません。これは商標制度の違いが根本にあることからの影響なのかもしれません。

3.国内の競合他社を意識した出願

マクドナルド社の競合の一つである日本KFCホールディングス株式会社。J-PlatPatで権利者”ケンタッキー フライド チキン インターナショナル ホールディングス インコーポレーテッド”の商標権は97件確認ができました。

カーネルバリューメニュー\COLONEL’S VALUE MENU(5102514号)を29,30,43類で、サマーバーレル\SUMMER BARREL(5102516)を29,30類で、KFC A.M.(5222181)を29,30,43類で、等キャンペーン名の登録を積極的に行っています。競合他社の商標出願傾向を加味した出願をすることによって、各国での出願傾向が異なってくることも要因として考えられます。

画像出典:https://www.kfc.co.jp/menu/

ブランドの質を守る 「ガイドライン」の必要性

問われる企業のブランド管理力

商標出願傾向から、マクドナルドの商標管理体系はアメリカ本社で一括で担われているのではなく、各海外法人にて対応をする体制が組まれていることが考えられます。グローバル企業が行う商標管理体制には大きく分けて2つの体制が存在します。①本社(本社に限らず1組織)が国内外すべての商標管理をし統制を行う。②本社、その他各国の商標管理を切り離し別々に管理組織を置き管理を行う。マクドナルドは後者に該当すると考えられます。

①の1組織に集約した管理の場合、対応する人数が限られていることから、ガバナンスがきくため一定した判断基準によるブランド管理の実現性が高まることがメリットのひとつではあります。その一方で、その国々での文化や嗜好の反映のしにくさや、エンドユーザーからの声の届きづらさ、各国競合他社の動向に気づきにくい、等のデメリットが考えられます。

①②どちらで管理する場合であっても、ブランドの識別力と強さを強めるためには、企業のブランド管理力が問われるのです。

ガイドラインの一例

・企業のブランド構築・確立・活用における商標の位置づけ
・ブランドを構築しようとする企業の商標出願に対する考え方
・ブランド構築のための商標の選定手法
・海外出願して権利化する商標(優先して権利化する商標)の特徴
・海外出願する際の注意点及び海外での商標の活用例
・商標の出願・管理・活用の体制
・商号、商品名、スローガン、シンボル、キャラクター商標の管理手法
・ブランドの付加価値を守る手法   etc…

各国の制度や特徴を踏まえた管理について
商標等の知的財産権が企業の財産である以上、企業はこれらの権利を適切に保護すると同時に、有効に実施・活用していく方法を理解する必要があります。知的財産権の保護・活用を意識しなければならないのは、大手企業だけではありません。むしろ、リソースが限られている中小企業・小規模事業者こそ、知的財産権の保護と活用を経営問題の一環として意識や工夫をしていかなければなりません。訴訟がビジネスや交渉の戦略として用いられる米国においては特に、訴訟に巻き込まれる前に、中小企業が自ら、企業の隠れた価値の発掘と権利化、活用、そして知財人材の育成に向けた努力をする必要があるのではないでしょうか。