「narnia.mobi」に関するWIPOドメイン名紛争処理

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ドメイン名をめぐるC.S. Lewis (PTE.) Ltd.(以下、申立人)およびRichard Saville-Smith氏(以下、被申立人)間の争いが、このたび世界知的所有権機関(以下、WIPO)の仲裁センターにおいて決着を見ました。

申立人は、『ナルニア国物語』を含むイギリスの文学者故C.S.ルイス氏の作品に関する商標権や著作権、その他所有権等を有していることから、被申立人に対して「narnia.mobi」の譲渡を直接要求しましたが、被申立人がこれを拒否したため、2008年5月28日に「narnia.mobi」の移転を求める申立をWIPOに対して行いました。

 
当該申立に対して、被申立人は以下の点を主張し、反論しました。

  • 息子の誕生日にプレゼントするために当該ドメイン名を登録し、ただ保持していた(passive holding)だけであり、悪意に基づく使用を行う意図がなかった。
  • 当該ドメイン名の登録を通して商業的利益を得る目的はなかったので、統一ドメイン名紛争処理方針(以下、UDRP)に基づき、自分は当該ドメイン名について権利あるいは正当な利益を有する、等。
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    これに対しWIPOのパネリストは以下の見解を示しました。

  • 故意に他者の商標を含むドメイン名を登録する行為は、メールアドレスとして使用する目的であったとしても、かかるドメイン名についての被申立人の権利あるいは正当な利益を立証することにはならない。メールアドレスとしての使用が権利を認める上で十分であるとされた裁定も存在するが、それらのケースでは、当事者がその名称により知られていた点において本件とは異なる。
  • 被申立人は対象ドメイン名を実際に使用しておらず、使用する準備もしていないことから、対象ドメイン名の正当かつ非商業的な使用あるいは公正な使用を行っているとは言えず、対象ドメイン名について権利あるいは正当な利益を有していない。
  • ドメイン名が明らかに申立人(あるいはその商品やサービス)と関連付けられる場合には、申立人となんら関係のない者によるかかるドメイン名の使用は「opportunistic bad faith(便乗的悪意)」を伺わせる。
  • 本申立書が提出された後に、被申立人が「freenarnia.com」および「freenarnia.mobi」を登録したことは憂慮すべきである。
  • 被申立人は当該ドメイン名の積極的な使用を行っていないと主張しているが、一般にドメイン名をただ保持していた場合であっても、かかるドメイン名のいかなる使用も公正な使用とは考え難い場合には、かかる保持する行為は悪意とみなされ得る。
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    上記の理由等により、2008年7月21日に裁定が下され、「narnia.mobi」の被申立人から申立人への移転が命ぜられました。

    著名な商標を含むドメイン名であって、その登録者が当該商標と何ら関係を有しない第三者である場合には、たとえ当該ドメイン名が積極的に使用されていない、いわゆるpassive holdingに供されている場合であっても(つまり転売目的であることが明示されている、消費者の誤認混同を招いて不正に利益を得るために使用されている等、明確な悪意の証拠がない場合であっても)、被申立人の悪意が認められる可能性が十分にあることを本件は示しています。

    世界中で広く認識されている著名商標を有するグローバル企業にとって、サイバースクワッティングは大きな脅威です。今回の「narnia.mobi」のケースでは、passive holding自体が悪意の根拠として認められていることから、グローバル企業におけるサイバースクワッティング対策を考える上で明るい判断材料であると言えます。しかしながら、ドメイン名奪還に高額な費用と多大な労力を要する現状を考慮すると、サイバースクワッティングに対する最善の防衛策は、自社商標のドメイン名を積極的に登録し、サイバースクワッターによる取得・使用を未然に防ぐことであると考えられます。

    一方、個人の観点からは、ドメイン名取得の意図が他者へのプレゼント等、私的かつ善意によるものであったとしても、passive holding自体が悪意の根拠として認められる可能性が示されていることから、本件は第三者の商標権を侵害するドメイン名をむやみに取得する行為に対する警告であるとも言えます。

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